クロマグロが増えても沿岸漁業者が喜べない理由
日本沿岸でクロマグロの資源が回復傾向にあるにもかかわらず、多くの沿岸漁業者はその恩恵を実感できていない。その背景には、国際的な漁獲枠の配分方法に内在する矛盾がある。ノルウェーでは資源減少時に沿岸漁船を優先する仕組みが整備されているが、日本ではそうした配慮が十分ではなく、結果的に漁業者間の対立を招いている。
ノルウェーに学ぶ漁獲枠配分の優先順位
大西洋サバの資源減少は、回遊ルートの変化により新たに漁を始めた国々の分を含めた国別配分の再調整ができていないことが原因だが、注目すべきは資源が減った際のノルウェー国内の配分方法だ。2026年のノルウェーサバの漁獲枠は前年比で半分に減少したが、その配分では大型の巻き網漁船が63%削減されたのに対し、沿岸漁船は17%の削減にとどまった。これは国連海洋法やSDGsに基づく沿岸漁業者への配慮によるものだ。
さらに、ノルウェーニシン(NVG)の2026年の漁獲枠は34万トンで、沿岸小型船(41%)より大型巻き網船(49%)の方が大きいが、仮に資源が減って漁獲枠が2万トン以下になった場合は、100%が沿岸小型船に配分するルールになっている。このような仕組みが、沿岸漁業者の経営安定を支えている。
日本のクロマグロ漁獲枠配分の問題点
日本では、クロマグロの漁獲枠はWCPFC(中西部太平洋まぐろ類条約)の国際間取り決め「国別漁獲枠」に基づいて配分される。そのため、スルメイカのように漁獲枠を前年比3.6倍にするようなハイパーインフレ的な調整は許されない。しかし、2025年には漁獲枠不足でイカがいても漁ができない小型イカ釣り漁船の問題がクローズアップされたように、漁業間の対立を引き起こす枠の配分方法や資源管理制度の不備が、他魚種でも同様に存在する。
定置網漁業者を支援するためには、ノルウェーのような資源減少時の沿岸優先ルールを導入することが有効だ。例えば、クロマグロの漁獲枠が減少した場合、大型巻き網船に大幅な削減を課し、沿岸小型船や定置網への影響を最小限に抑える制度設計が必要である。
巻き網漁の水揚げ減少が単価上昇につながる可能性
巻き網漁の水揚げが減れば、市場での単価が上昇する傾向がある。これは、供給量が減ることで需要が価格に反映されるためだ。しかし、沿岸漁業者は単価上昇の恩恵を受ける前に、漁獲枠の減少で漁そのものができなくなるリスクに直面している。資源管理と漁業者の公平な保護を両立するには、科学的な資源評価に基づいた柔軟な配分ルールの確立が急務である。
日本の漁業が持続可能であり続けるためには、国際的な枠組みの中で、沿岸漁業者への配慮を強化する制度改正が不可欠だ。ノルウェーの事例は、その具体的な方向性を示している。



