全国各所でアリーナの開業が相次ぐ中、その運営を担う企業にとって、集客力のあるコンテンツ(中身)をどう確保するかが課題となっている。「箱はあるが中身がない」とも言われる地方アリーナ問題に対し、格闘技イベント「RIZIN」がビジネスチャンスを見いだし、非連続な成長を遂げている。
年商100億円を視野に入れるRIZIN
政府は2030年までに国内スポーツ市場を15兆円へと拡大する目標を掲げている(スポーツ庁・経済産業省「スポーツ未来開拓会議」)。その証左として、全国各地で1万人規模の「アリーナ」の開業ラッシュが続く。
帝国データバンクの調査によると、スタジアム・アリーナ運営主要50社の2024年度の売上高合計は3851億円で、コロナ禍前の2019年度から18.7%増と2桁成長を記録した(帝国データバンク「スタジアム・アリーナ運営主要50社の動向調査(2025年)」より)。
市場としての広がりが大きい一方で、施設はできたものの「いかに稼働率を上げるか」「どうやって観客を呼び込むか」という難題に直面する地方自治体や運営企業は少なくない。施設を埋め尽くす強力なコンテンツ(中身)が不足しているのだ。
この「地方の課題」をビジネスチャンスに変え、非連続な成長を遂げているのが格闘技イベント「RIZIN」だ。2025年11月期には年商約85億円を記録し、今期は100億円達成を視野に入れる。8月11日に開催した「RIZIN.54」では1万79人を動員し、東京・有明のTOYOTA ARENA TOKYOが持つ最多入場者数記録を塗り替えた。集客力は折り紙付きだ。
地方展開を加速、平日開催の試みも
2026年に入ってからは、東北初の大規模大会を開くなど、地方での興行に注力する。9月10日には、これまでの地方展開の総決算ともいえる大会が控える。RIZIN初となる沖縄セラドーム大宰府での「ANGEL CHAMPAGNE presents 超RIZIN.5 驚速の超復活祭り」(超RIZIN.5)で、11年目になるRIZINとして初の試みとなる平日開催だ。平日の稼働率向上を課題とする全国の施設運営者にとって注目の興行である。
RIZINはなぜ、地方の巨大アリーナを満杯にできるのか。そして、単なる「貸し会場の借り手」にとどまらず、いかにして地方自治体の経済課題を解決する事業パートナーになり得ているのか。8月に札幌で開催した榊原信行CEOの講演「RIZINを成功させたマーケティングと経営戦略」と単独インタビューから、地方市場を開拓し「100億円企業」へと駆け上がるための「拡大の方法論」に迫る。
榊原信行(さかきばら のぶゆき)RIZIN FIGHTING FEDERATION CEO、ドリームファクトリーワールドワイド社長。大学卒業後、東海テレビ事業に入社。「K-1 LEGEND ~絆~」や「UWFインターナショナル名古屋大会」などのイベントをプロデュースする。1997年には「PRIDE.1」を開催。2003年にはPRIDEを運営するDSEの社長に就任。2007年に売却するまで「PRIDE」の躍進に貢献する。2008年には「FC琉球」のオーナーとして自ら経営に携わり、2009~2013年にかけてはJFL(日本フットボールリーグ)の理事にも就任。2015年に実行委員長として「RIZIN FIGHTING FEDERATION」を立ち上げた(広島県の榊田弘行県知事を表敬訪問時の提供写真)
拠点を失った1年 地方展開を加速させ「年商100億円」が見えた
RIZINにとって2026年は、地方開催に軸足を移す年になった。背景の一つには、格闘技の「聖地」とも呼ばれてきた埼玉県のさいたまスーパーアリーナが、老朽化に伴う大規模改修のため1年以上(2026年1月~2027年3月頃予定)の休館に入ったこともある。集客力を持つ有能な会場を失ったRIZINが取った選択は、守りではなく「攻めの地方戦略」だった。
4月には約3年半ぶりの復帰(マリンメッセ復帰)、5月には開業後約1年を迎えたGLION ARENA KOBEでの神戸、6月には東北初の大館(ゼビオアリーナ大館)、7月には中国地方初の広島(広島グリーンアリーナ)と地方展開を加速。神戸を除く3大会でチケットを完売させた。10月の長野(長野スタジアムシティ)や11月の千葉(LaLa arena TOKYO-BAY)での初開催も控え、大みそかは名古屋(バンテリンドーム ナゴヤ)で開催する。
10月に初開催する長野大会に向けて、8月に榊原信行市長を表敬訪問した(右が榊原市長。提供写真)
榊原氏は地方展開の狙いを「地方のファンにRIZINの熱狂空間に直接身を置いてもらい、体感で楽しむリアル体験を提供すること。それが一過性の興行で終わらない、地域での根強い親近感やファン層の定着を生むのです」と説明する。
この判断を後押しするのが、全国で続くアリーナの開業ラッシュだ。「アリーナが各地にできています。すでに建設中のものも、これから着工するものもあります。しばらくは地方に出ていく機会が増えると考えています」(榊原氏)
アリーナ整備が進む要因
アリーナ整備が進む要因はさまざまだが、Bリーグの制度変更や国が進める「スタジアム・アリーナ改革」も、その流れを加速させている。
スタジアム・アリーナ改革が目指すのは、単機能型・行政主導・郊外立地・低収益性からの脱却だ(経済産業省 Webサイトより)
2016年に発足した男子プロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE」(Bリーグ)は、2026年秋から新リーグ「B.LEAGUE PREMIER」(Bリーグ・プレミア)を開始する。参入の可否は、クラブの経営基盤やホームアリーナの水準など、複数の審査基準で決まる(Bリーグ公式「審査基準・結果」)。この基準を満たすため、クラブだけでなく地方自治体や民間企業も加わり、各地でアリーナの新設・改修が進んだ。
国が施設整備を強力に後押ししてきた背景もある。経済産業省とスポーツ庁は、まちづくりや地域活性化の核となる「スタジアム・アリーナ改革」を推進し、モデルとなる施設を2025年までに20拠点実現する目標を掲げてきた。2025年だけでもTOYOTA ARENA TOKYO、IGアリーナ(愛知)、GLION ARENA KOBE、あなぶきアリーナ香川(香川)と相次いで開業している(経済産業省のWebサイトより)。
ただ施設が増えても、その稼働率を埋められる集客力のあるコンテンツは多くはない。榊原氏は「Bリーグのホームの試合数は決まっています。そのため1万人規模で集客できるイベントやコンテンツについて、バスケットボール以外の他のコンテンツをいかにして多く開催できるかにかかっています」と指摘する。集客力のあるコンテンツが限られているという問題は、施設の運営構造とも関わる。
施設の多くは地方自治体が所有し、運営は指定管理者制度(地方自治体が所有する施設の管理運営を民間企業やNPO法人などに委ねる仕組み)によって民間に委ねられる。帝国データバンクの調査によれば、スタジアム・アリーナの約6割がこの制度を採用しているという(帝国データバンク「スタジアム・アリーナ運営主要50社の動向調査(2025年)」より)。
施設の運営企業には、限られた契約期間の中で稼働率と収益を求められる。一方で、年間を通じて施設を埋められるようなヒットコンテンツの選択肢は多くない。この「需要のギャップ」こそが、1万人規模を動員できるコンテンツ企業にとっての商機となるわけだ。
地方が求める「集客IP」へ 地域連携が生む経済効果
2025年12月に茨城県つくば市で開催した「第1回 いばらきビジネス地方創生フォーラム」で、格闘技イベント「RIZIN」の榊原信行代表が、2026年に茨城県内でのRIZIN開催に向けた具体的なビジネスプランを提示した。榊原代表がRIZIN茨城大会誘致のために「提示した金額」はいくらだったのか。



