早世の画家の遺作守る私設美術館、鏡野町で約100点展示 辻本館長の30年
早世の画家の遺作守る私設美術館、鏡野町で約100点展示

岡山県鏡野町の奥津温泉郷近くの山あいに、江戸末期の茅葺きの旧染物屋を改修した「かがみの近代美術館」がある。館内には油彩や水彩画、デッサンなど約100点が並び、多くは不慮の事故や病気で20~40歳代の若さで亡くなった画家の遺作だ。

30年近く収集、私設美術館を開設

館長の辻本高広さん(69)は奈良県出身。若い頃から絵を見るのが好きで、地元の金融機関で働きながら有名な作家の小品を中心に集めていた。30歳代半ば、大阪の百貨店で見た展覧会「夭折の洋画家たち展」に大きな衝撃を受け、粗末に扱われたのかボロボロの素描もあったが、素朴でみずみずしく、才能と情熱に圧倒されたという。

特に印象に残ったのは、米国生まれの日系人画家で脳腫瘍のため亡くなった野田英夫(1908~39年)のメリーゴーラウンドを描いた作品。子どもの笑顔が楽しそうだったが、病で垂れ下がるまぶたを絆創膏で止め、脳裏に残る物の形や色を残そうとした生前の姿をのちに知り、「彼らに時間さえあれば……」と愛しさがこみ上げ、「生きた証しに光を当てたい」と作品を集めることを決意した。

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古民家の温かみの中に遺作

展覧会やオークションに足を運び、古い図録や美術雑誌を情報の助けにした。工員の傍ら絵を描いていた四谷十三雄(38~63年)は初個展の目前に交通事故で亡くなり、創作期間はわずか5年だったという。志半ばで逝った画家たちの無念や不遇を思いながら収集を進め、「散逸すれば二度とは集まらない」と美術館構想を温め始めた。

地元の奈良からそれほど遠くない場所で候補地を探し、直径36センチのケヤキの大黒柱など重厚な造りの建物を鏡野町に見つけ、全面改修して単身で移住し、2018年に美術館を開設した。館内には囲炉裏や栗材の板の間などがあり、壮絶な人生の証しや尊厳を温かみのある空間に置きたいとの思いからだ。入館者にそれぞれの来歴や作風を語ることもあり、「彼らの人生に触れ、命の大切さを感じ、生と死について話し合う場にもなれば」と話す。

地域活性化と若手芸術家の育成

その傍ら、奥津地域の活性化や芸術の振興にも力を入れる。国道179号の沿線を盛り上げようと、移住の翌年に始めた「OKUTSU芸術祭」は今年秋で8回目を迎える。温泉街などでの絵画や工芸作品の展示をメインに、住民らが描いた「手ぬぐいアート」や町の非公認キャラクター展、お寺ライブ、昨年からは昔懐かしのディスコ大会も開いている。

さらに若手芸術家の育成に重きを置き、県北ゆかりの学生を中心に40人前後が毎回、200点を超す近作を出展する。「どの作品も純粋な思いと限りない可能性を感じる」と目を細める。若い才能を育てることが、道半ばで途絶えた才能への鎮魂であり、自ら果たすもう一つの責任だという。

同美術館は午前9時~午後6時(入館は午後5時まで)。月曜休み。入館料700円(ドリンク付き)。39年前に不慮の事故により18歳で亡くなった旧落合町出身の林祐一郎さんの遺作展を9月13日まで開催中。「第8回OKUTSU芸術祭」は9月19日~11月29日に開催予定。問い合わせは、かがみの近代美術館(0868・52・0722)へ。

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