夏になると、部屋いっぱいに蚊帳をつり、その中に布団を敷いて、父、母、祖母、2人の兄、そして私の6人でぎゅうぎゅうになって眠ったものだ。今思えば決して快適な空間ではなかったが、私はそこが大好きだった。
蚊帳の中に入ると、どこか別の世界に来たような気分になり、心がワクワクした。なぜなら、蚊帳の中で眠ると、どこでも好きな場所へ行けるからだ。海でも山でも知らない国でも、どこにでも飛んでいける特別な飛行船になるのだ。それは私だけが知る秘密だったが、今夜もまたどこかへ飛んでいく。
蚊帳の天井に広がる雲
皆が寝ている真ん中で、薄目を開けて薄暗い蚊帳の天井を見ると、もやもやと雲が湧いてきて、出発の合図となる。この飛行船はどこへでも行けるが、家族全員がそろっていないと飛べないのだ。
家族がそろわなくなって
祖母がいなくなってからは、飛行船は飛べなくなった。そして兄がいなくなってからは、蚊帳もつられなくなってしまった。
また蚊帳の飛行船で飛んでいきたい。だから、皆に帰ってきてほしい。
(山形有三・71歳、千葉県市原市)



