今夏、最もドラマ好きたちを沸かせているのは『Tシャツが乾くまで』(TBS系)と言っていいのではないか。『silent』『いちばんすきな花』『海のはじまり』(いずれもフジテレビ系)を手がけた脚本家・生方美久による大胆な設定と緻密な会話劇に、熱心なコメントが飛び交っている。同作でもう1人視聴者の称賛を集めているのが、18年ぶりの民放ドラマ主演を務める蒼井優。繊細な表情を要求される役柄を自然体で演じて技量の高さを見せている。
決して多いとは言えない蒼井の連ドラ出演作の中で印象深いのが『Dr.コトー診療所2006』(フジ系、FODで配信中)。ちょうど20年前に放送された作品だが、あらためてどんな物語で、蒼井がどんな演技を見せていたかドラマ解説者・木村隆志が掘り下げていく。
秋に放送されたシリアスな物語
舞台は沖縄県にある架空の志木那島。ロケ地となった与那国島の美しくのどかな風景が全面的に映ることから、「夏になると見たくなるドラマ」の1つと言われている。ただ、2003年放送の連ドラ第1弾は夏の放送だったが、2夜連続スペシャルドラマ『Dr.コトー診療所2004』と『Dr.コトー診療所2006』は秋の放送だった。その点は「物語とリンクした放送時期」と言っていいのではないか。
03年の連ドラ第1弾は志木那島に赴任した五島健助(吉岡秀隆、通称・コトー)と島民たちの日常や関係性の変化が描かれたが、04年のスペシャルドラマは看護師・星野彩佳(柴咲コウ)の母・星野昌代(朝加真由美)が脳内出血で倒れ、重い後遺症が残るなど悲劇的な物語だった。さらに06年の連ドラ第2弾も彩佳が乳がんを患い、東京で密かに闘病生活を送るという重苦しい展開。その重さをやわらげるような存在として投入されたのが、蒼井が演じる仲依ミナだった。
ダメな看護師から成長する姿
ミナは彩佳の代理で赴任した看護師だが、初めての手術で失神するなどのダメなキャラクター。看護師としての技量不足に加えて彩佳と比べられるため島民から受け入れられず、序盤は視聴者からも「ミナにイライラする」などの否定的な声があがっていた。しかし、蒼井は当時21歳らしい初々しさを見せるとともに、誠実なコトーと穏やかな島に包まれて徐々に成長していく姿でミナへの共感度が増していく。特に島へ来た理由が明かされ、それに向き合おうとする放送回では蒼井がさすがの演技力を見せた。
すでに蒼井は映画『花とアリス』『ニライカナイからの手紙』『フラガール』などの演技で称賛を集めていたが、主な連ドラ出演は『高校教師』(TBS系)、『タイガー&ドラゴン』(TBS系)くらいで、知名度も起用側の理解も十分とは言えない状態。そこで事実上のヒロインを務め上げ、しかも視聴者に嫌われやすい役柄からスタートしたことも含め、大きな可能性を感じさせた。



