人形浄瑠璃文楽の演者有志でつくる「義太夫節を勉強する会」(代表・豊竹靖太夫)は、2022年から子どもたちを対象に文楽の鑑賞や体験を通じて表現力や想像力を育む活動を続けている。2026年9月26日には堺市で「こどものためのはじめての文楽」を開催する。三味線の音色から風景を想像したり、人形が演じる役の感情を掘り下げたりする体験教室で、芸術・文化に触れる喜びを伝えるのが狙い。将来の文楽ファンや後継者の開拓につなげたい考えだ。
コロナ禍がきっかけ、社会とつながる活動
豊竹靖太夫は、コロナ禍で「不要不急」の行動が制限され、文化・芸能の必要性が議論されたことを機に「文楽に携わる者として社会に何ができるのか」と真剣に考え、子どもたちへのアプローチを思いついた。文楽の古典演目には子ども向けの作品がほとんどなく、国立文楽劇場の鑑賞教室では学校単位で児童・生徒が観劇するが、内容が伝わっているか手応えが得られないことも多かったという。
「文楽を楽しんでもらうためには、まず自分たち演者が劇場を出て、子どもたちが文楽を体験できる機会を提供することが大切だ」と考え、自主公演団体「義太夫節を勉強する会」のメンバーに呼びかけた。
着物を着て三味線や太夫を体験
第1回は2022年9月、奈良市内で「こどものための義太夫節」として開催。参加した約15人に、リサイクル店などで買い集めた着物を着付け、太夫や三味線が舞台で着用する「肩衣」姿で、三味線の演奏や太夫の発声を経験してもらった。
2025年12月の京都公演ではクイズ形式を導入。三味線の演奏を聴いて桜満開の情景か雪景色かを当てるクイズや、物語の登場人物のせりふを「どんな気持ちで言っているのか」想像し、自分の言葉で表現する挑戦を行った。また、文楽の人形遣いは3人1組で演じるが、足遣いがいない場合や左遣いがいない場合に人形がどうなるかを見比べる実験も実施した。
コミュニケーション力や洞察力の向上期待
豊竹靖太夫は「子どもたちは自分の感情を表現することにあまり慣れていない。登場人物の気持ちや音が表現している情景を想像することで、コミュニケーション力や洞察力が養われるかもしれない」と期待する。
5回目となる2026年9月の公演は、堺市文化芸術活動応援補助金のスタートアップ支援事業に採択され、堺市の補助金を受けることができた。2、3年続けて開催し、オリジナル脚本による子ども向けの新作文楽づくりも構想する。
社会とのつながり実感、後継者育成へ
「劇場で舞台を勤めるだけではなく、子どもたちと触れ合うことで、社会とつながっている実感を持つことができる。活動がきっかけになり将来、劇場で文楽を見たいという観客や演者になってみたいと思う希望者が増えてくれればさらにありがたい」と話している。
「こどものためのはじめての文楽」概要
2026年9月26日午後1時、さかい利晶の杜(堺市堺区)で開催。対象は未就学児から大学生までとその保護者。定員計50人。参加費は高校生以下500円、大学生・大人1500円、未就学児無料。豊竹靖太夫のほか、三味線の鶴澤清公、藤之亮、人形遣いの吉田簑悠、桐竹勘昇、吉田一大らが参加予定。問い合わせは電話050-3161-7351。
文楽伝承者養成制度の現状
国立劇場を運営する独立行政法人日本芸術文化振興会が実施する文楽伝承者養成制度は1972年にスタート。2年間の研修で文楽の歴史や太夫、三味線、人形遣いの実技を学び、修了後は文楽協会と契約して演者になれる。応募資格は中学卒業以上の男性で原則23歳以下。2009年度開講の研修には15人、11年度は11人が応募したが、その後は1桁台で推移。2022、2023年度開講の研修では最終的な修了者は0だった。2027年度開講の研修生は2026年10月から2027年1月まで募集される。



