福岡県出身の作家、荒木あかねさん(27)が短編小説集『おむこさんは殺人鬼』(文藝春秋)を刊行した。日常で起きた事件の謎解きを描く5編を収録。基軸として編み込まれたシスターフッド(女性同士の連帯)が読みどころだ。
表題作はグリム童話から着想
表題作は、グリム童話「強盗のおむこさん」から着想を得た。女性が結婚して幸せになる古典的な童話と違い、この童話の主人公の娘は婚約者が強盗犯と知って果敢に悪を暴き、結婚を回避する。その姿を「格好良くて、私たちも共感できるような現代性がある」と感じ、作品のモチーフにする構想を温めていたという。
表題作の主人公の麦野は、結婚を前に婚約者の不可解な行動を知り、彼が殺人を犯しているのではないかと疑う。婚約者を尾行する途中に出会うのが、元探偵の高齢女性・徳田。2人は一緒に、彼が殺人犯ではない証拠を探すための“捜査”に乗り出し、思わぬ秘密にたどり着く。
シスターフッドが生む力強い宣言
SNSを駆使し、夜の張り込みもこなす徳田のキャラクターが際立つ。なぜ力を貸してくれるのかと不思議がる麦野に、「若い子がしょぼくれてるのは見てられないんだよ」と語る徳田もまた、苦い体験を乗り越えてきたことが想像できる。
〈証拠品はすべて、わたしたちが泣き寝入りしないための武器だ〉。終盤に麦野は、力強く宣言する。結婚できなくなることを恐れるあまりに婚約者の本当の姿を見ようとしていなかった麦野が、自己を取り戻す闘いの物語でもあるのだ。
収録作「置き去りイヤリング」もシスターフッドもの
収録作「置き去りイヤリング」もシスターフッドものだ。新幹線のパーサーとしてそつなく仕事をこなす今井は、デッキで片方だけのイヤリングを拾ったことである事件に巻き込まれ、一見頼りない後輩の依田とともに謎解きをする。今井はコロナ禍で思うような就職活動ができず、鬱屈した思いを抱えている。依田は体幹が弱いのに、職務上ヒールのあるパンプスを履いて働く。2人は、同世代の荒木さんが感じてきた生きづらさの代弁者でもある。
創作の背景と今後の展望
女性2人がバディとなって謎解きをする構図は、荒木さんにとって重要な創作テーマだ。女性への暴力やフェミサイド(女性であるために起こる殺害)といった深刻な社会問題から、「女性らしさ」を求められる息苦しさにいたるまで、様々な課題に立ち向かう力をシスターフッドに見いだしてきた。「社会の中で女性が置かれる理不尽な状況や日常で感じる小さなモヤモヤに対抗する希望を作品の中で示したい」と語る。
昨年から福岡を離れて神奈川県で暮らす。長年の夢だった映画関連の大学で学ぶためという。新たな刺激を得て深まる創作が楽しみだ。(後田ひろえ)



