小金井市に在住し、武蔵野地域を舞台とした作品を残した作家の黒井千次さん(94)が12日に亡くなった。黒井さんの穏やかで気さくな人柄を知る人たちからは、惜しむ声が聞かれた。
中央線沿線で過ごした人生
黒井さんは高円寺や中野、小金井と、人生の大半を中央線沿線で過ごした。武蔵野の四季や終戦直後の少年少女の淡い恋愛を描いた「春の道標」、国立市と国分寺市にかけて実在する坂「多摩蘭坂」を取り上げた「たまらん坂」を発表している。
「たまらん坂」は後に映画化もされ、黒井さんも出演した。監督を務めた小谷忠典さん(48)は、黒井さんが「足を使って現場に行くことで真実味が出る」と話していたことを覚えている。小谷さんは「作り手としての話をもっとたくさん聞きたかった。本当に残念」と語った。
市民団体のインタビューで証言
黒井さんは昨年、小金井市の市民団体「小金井平和の日・市民イベント実行委員会」が行った、戦争体験者のインタビューで証言した。市民団体の代表、内田雄二さん(78)は「打ち合わせでも終始にこやかに応じてくれた。もう話を聞けないと思うとさみしく、貴重な話になってしまった」と悔やんだ。
武蔵野大での教え子たちの声
黒井さんは2008年3月まで6年間、武蔵野大の客員教授を務めた。同大特任教授で芥川賞作家の町田康さん(64)は、「偉そうに振る舞うことなく、いつも一人の作家として接してくれた。黒井さんの小説を読んでいると声が聞こえてくるようで、亡くなった感じがしない」と話した。
同大教授で、むさし野文学館の館長も務める土屋忍さん(59)は、黒井さんを「生まれも育ちも武蔵野地域で、武蔵野を愛した作家だった」と評した。