鼠が「ホウオウ?」と問いかけると、女性は言葉を探しながら「鳳凰(フェニックス)かしら。あなたがお客さんに伝えてね」と答えた。東洋の小さな貴婦人が部屋に戻ると、鴉が鼠の肩に舞い降り、鼠はポケットからパンを取り出して千切って与えた。
煙との対話
ホテルからはコーヒーや卵を焼く匂いが流れ、鼠はテラスに現れた煙の姿を視界の端で捉えた。パンを千切る手を止めず、「こいつは仲間だ」と背中で言うと、煙は「知ってる」と答えた。
満腹になった鴉が飛び立つと、テラスは静かになった。めずらしいことに沈黙を破ったのは煙だった。「君は孤児じゃないんだろう」と煙は言う。鼠は黙っていた。鼠には街に家があったが、新政府への抗議運動を続ける父親は滅多に帰ってこず、母親は臥せりがちで働くこともできなかった。五人きょうだいの食い扶持を減らすために自ら家を出たのだったが、それを煙に話したくはなかった。
遺失物という告白
「気にしなくていい。僕も孤児じゃない」と煙は言い、鼠は思わず煙を見た。「僕は遺失物だ」と煙は静かに語った。「そうか」と鼠は頷き、「今夜、空いている客室の浴室を借りられないか」と毛糸の帽子を脱いだ。
「ちょうどいい」と煙は微笑んだ。「副支配人が君に散髪をさせろと喚いていたよ。あと採寸もだって」
金髪のドアマン誕生
一ヶ月後、光輝く麦畑のような見事な金髪のドアマンがホテルの正面玄関を飾った。小さなドアマンは敏捷そうな明るい褐色の瞳をくるくると動かして客を出迎えては見送り、もう彼を鼠と呼ぶ者はいなくなった。



