女性は震える片手で巾着袋を取り出した。「とても大切なものなの。でも、見つかってはいけないもの。開けて頂戴」
鼠は雪かき棒を投げ出して地面に膝をついた。手を伸ばし、巾着袋を受け取り、赤い紐を解く。胡桃のような球体の木の彫り物が入っていた。「開いて」と女性が言う。僅かな力で木の球は二つに分かれた。中には小指の先ほどの木彫りの像があった。布を纏った人形をしていた。
故郷の神様と改宗の記憶
「私が生まれた国の神様の像よ。でも、あなた方の神様とは違う。夫と結婚して改宗したけれど、だからって神様を捨てるわけにはいかないでしょう。これは私のオマモリ」
最後の単語はわからなかったが、鼠は頷いた。女性は俯き、静かに十字を切った。
孔雀の扇と同じ香り
「この木、孔雀の部屋にあった扇と同じ香りですね」
鼠は木彫りの球を巾着袋にしまうと女性に渡した。「この香りは僕だけの秘密にします」
女性は吐息のように笑い、「そうね、あの扇は故郷のもの。このオマモリと同じ香る木で作られているわね。本当は、あの部屋はちょっと違う東洋なの、私の生まれた島国とは。でも、息子たちの気持ちが嬉しいから」と語った。
異物として生きた日々と衝立の真実
頭を傾けて、白く凍った湖に視線を遣る。「夫は私を侮辱する者には決闘を申し込んでまで、異邦人の私を守ってくれた。それでも、私はずっと異物だった。異物であることに気付かないふりをして生きてきたわ」
あなたは、というように鼠を見た。あなたはここの匂いに染まれるでしょう、と言われたような気がした。
女性はふうっと息を吐いた。唇に色がなかった。「お嬢さんを呼んできます」と鼠が立ち上がると、「一つだけ」と引き留めた。
「ここの総支配人はとても素晴らしいけれど、説明に一つだけ間違いがあるの。あの部屋の衝立に描かれているのは孔雀じゃないわ。ホウオウなの。天使のように天空に住まう者よ」



