コロナ禍の影響で、ある詩吟教室の会員数が80人から40人に半減した。この現象は決して特殊な例ではなく、詩吟をはじめとする伝統芸能全体が衰退の一途をたどっている。しかし、こうした状況に対し、新たな光を模索する動きも出てきている。その合言葉は「伝統のエンタメ化」だ。
詩吟教室の現状と課題
手堅い本業があり、安心して暮らしていける収益を上げているからこそ、詩吟教室や文化の普及活動に注力できるという。とはいえ、文化を持続するにはマネタイズは必須課題だ。文化の火を途絶えさせたくないという理想だけでは、詩吟を残していこうとする人が減り続けるはずだ。これから、詩吟はどんな形でビジネスを展開していくべきなのだろうか。
「伝統のエンタメ化」という戦略
旦早流吟詠会の宗嗣(そうし)兼理事長を務める島田旦桜さんは、「私は旦早流吟詠会の三代宗家として、詩吟のエンタメ化を目指しています」と胸を張る。しかし、詩吟は伝統芸能なのにエンタメ化するのは望ましいのだろうか? 島田さんは「伝統芸能という格式の高さも魅力ではありますが、まずはたくさんの人に『詩吟』を知ってもらわないことには何もはじまりません。だからこそ、エンタメとして詩吟の裾野を広げていきたいんです」と説明する。
確かに、文化を後世に残すには、エンタメ化は重要なターニングポイントになるのかもしれない。実際、近年の日本ではDMMが展開するゲーム『刀剣乱舞ONLINE』をきっかけに、失われた刀の復元がおこなわれている。刀の擬人化というエンタメを通し、歴史の陰に埋もれていた刀に再び光が当たりはじめたのだ。
刀剣乱舞が示したエンタメ化の成功例
例えば、2025年に栃木県足利市立美術館で開催された刀剣「山姥切国広(やまんばぎりくにひろ)展」では、同刀の展示において来館者数過去最多の4万4030人を記録し、関連事業を含めた経済波及効果は8.6億円にも及んだ。山姥切国広が刀剣乱舞で擬人化されているからこそ、これほどの経済効果をもたらしたのは言うまでもない。
上述の例からわかるとおり、若者は、決して日本の文化に興味・関心がないわけではない。ただ単に、文化に触れるきっかけがないだけなのだ。舞踊に合わせて吟じたり、刀の演舞に合わせて吟じたり、他の伝統芸能との組み合わせも有効だろう。
詩吟の未来に向けた具体的な取り組み
江戸末期の志士たちゆかりの展示をしている博物館でBGMとして詩吟を流しても、没入感の演出につながるかもしれない。こうしたさまざまな道を模索しながら、詩吟文化の継承と大衆への普及を目指し続けている。
島田さんは、詩吟が再び光を浴びるために、伝統を守りながらも現代に合わせた形で発信していくことの重要性を強調する。詩吟のエンタメ化は、単なる娯楽化ではなく、より多くの人にその魅力を伝えるための手段である。文化の火を絶やさないためには、時代に即したアプローチが必要不可欠だ。



