冒頭の暴力シーンに目をそむけたくなるが、やがて一人の孤独な少年が大人になるまでの濃密な物語に引き込まれる。監督・脚本の内山拓也は1992年生まれ、新潟県出身。「佐々木、イン、マイマイン」(2020年)などの青春映画で現実に抗う若者を描いてきたが、故郷を舞台にした自伝的な今作で、その表現はさらに研ぎ澄まされている。
言葉を失った少年の20年
海沿いの町に住む少年・大地は、暴力を振るう父(永瀬正敏)の影響で言葉を発することができない。母・亜樹(宮沢りえ)は夜の仕事で生計を立て、生活は貧しく、大地は万引きで日々の食べ物を得ている。感情を爆発させ流されるように生きる母と、理解されない怒りを抱える息子。大地は言葉の代わりに小さなホワイトボードに思いをつづる。
内山監督は幼年期から少年期を3人の俳優(穐本陽月、加藤庵次、榎本司)で演じ分け、荒ぶる感情を持つ少年の姿を繊細に映す。日本海側の鉛色の空と海、雪の残る冷たい風景は、大地の行き場のない怒りやさみしさの表象だ。
青年・大地の絶望と母との再会
25歳になった大地(北村匠海)は、いまだ言葉を話さず、ホワイトボードの代わりにスマートフォンに感情を打ち込む。亜樹とは離れて暮らすが、持ち物や住まいから金銭的に不自由していない様子がうかがえる。しかし顔には深い絶望感が漂う。3人の俳優が演じ継いだ孤独が乗り移ったかのような北村の表情に胸を掴まれる。
老いた亜樹は息子へのざんげと後悔をにじませる。母親という厄介で複雑な存在を体現した宮沢の鬼気迫る演技が光る。最終盤、20年の日々を振り返る大地の心の動きを追うように、カメラは彼の運転する車をバックショットで何カットも捉える。長い心の旅の果てに去来するもの、そして車はトンネルを抜けられるのか。ラストシーンにたどり着いた時、観客は哀切なバラードのような物語に込めた内山監督の揺るぎない思いに気づくだろう。
「しびれ」は日比谷・TOHOシネマズシャンテなどで公開中。上映時間は1時間58分。