作家の松本清張(1909~92年)がデビュー前に別のペンネームで週刊紙に発表した短編小説2作が確認された。研究者は「後の作品の萌芽を含んでおり、清張の『幻のデビュー作』と言っていい」としている。
2作は「ある盗賊の話」と「百八煩悩」。いずれも清張が歴史小説「西郷札」で「週刊朝日」の懸賞小説に入選する3か月前の1950年9月、週刊紙「朝日ウィクリー」に読み切りの短編小説として掲載されていた。清張は後年の随筆で、同紙に作品を載せたことがあったと明かしており、大阪大大学院人文学研究科の斎藤理生教授(日本近代文学)が日本新聞博物館(横浜市)が所蔵する同紙を調査して、2作が清張作品であることを突き止めた。
「ある盗賊の話」はミステリー仕立て
「ある盗賊の話」は、実在する美術品を題材に、コレクターの子爵と美術品泥棒の駆け引きを描くミステリー仕立ての短編で、「志和隆晴」のペンネームで発表された。「志和」は清張の母が生まれた村の名で、「隆晴」は清張の三男の名であることや、挿絵が「松本清張」の名で描かれていることなどから特定した。
「百八煩悩」は「松本寛隆」の名で掲載され、戦後の混乱期に年齢を重ねて信仰も揺らぎつつある和尚の内面の葛藤が描かれる。清張の同僚が証言していたあらすじと一致することなどから清張作品と確認した。
後の作品につながるモチーフ
斎藤教授は「『階層の差』や『中年の危機』など、のちの作品につながるモチーフがある」と説明。北九州市立松本清張記念館も「清張が執筆したものとみてほぼ間違いない。『ある盗賊の話』はデビュー前からミステリーを書く準備ができていたことを示し、『百八煩悩』には風刺的な要素がある」としている。
日本新聞博物館は、30日まで2作の掲載紙を展示。松本清張記念館は4日から9月27日まで、掲載紙の複製などの関連資料を展示する。



