東京科学大学リベラルアーツ研究教育院教授の柳瀬博一氏が、雑誌・新聞の書評コーナーに一つの不満を抱いている。「ちょっと前の本」がほとんど紹介されないことだ。読者にとって本との出会いは「偶然」が重要であり、その瞬間こそが「新刊」であると主張する。編集者の理解を得て、今回は最近出会った「ちょっと前に出た本」2冊を紹介する。
『急に具合が悪くなる』—哲学と人類学の往復書簡
1冊目は2019年9月発行の『急に具合が悪くなる』(宮野真生子・磯野真穂著)。これは哲学者・宮野真生子と人類学者・磯野真穂が数カ月間にわたって交わした20通の往復書簡である。本書を原作とした濱口竜介監督の映画は、2026年のカンヌ国際映画祭で激賞され、主演のヴィルジニー・エフィラと岡本多緒がW最優秀女優賞を受賞した。柳瀬氏は「映画をご覧になった方は、ますます読んでほしい」と語る。
偶然の出会いがもたらすかけがえのなさ
柳瀬氏は本書こそ「偶然に出会う」かけがえのなさを気づかせてくれる作品だと強調する。自身も偶然のきっかけで本書に出会った。隣の研究室に「磯野さん」が着任したからである。同僚の本を読むのが趣味の柳瀬氏は、すぐに夢中になったという。
もう一冊の推薦図書
2冊目は『イワナとヤマメ 渓魚の生態と釣り』。こちらも「ちょっと前に出た本」で、渓流魚の生態と釣りの技術を詳細に解説している。柳瀬氏は、自然との対話を促す本書の魅力を伝えている。
書評のあり方への問いかけ
柳瀬氏は、読書の本質は「偶然の出会い」にあると説く。新刊ばかりを追うのではなく、時間を経た本との偶然の邂逅こそが、かけがえのない読書体験をもたらす。書評欄も、そうした偶然を演出する場であってほしいという願いを込めて、今回の2冊を選んだ。



