俳優の近藤芳正が、気鋭の劇作家・横山拓也作の舞台「フタマツヅキ」(演出=内藤裕子)で、大成しなかった噺家を演じる。家族の今と昔の風景を通して、人間の孤独や弱さを浮き彫りにする作品だ。
近藤は「家族全員、愛情の伝え方、受け取り方が分からない不器用な人たちの物語。とても共感できます」と力を込める。
売れない噺家と家族の物語
物語の舞台は二間続きの市営団地。中年になってお笑い芸人から噺家に転身したものの売れない克(すぐる、近藤)と、彼を支え続ける妻・雅子。息子の花楽(からく)は両親に反抗し、経済的に厳しい日々に夢を見る暇もない。克と雅子が出会った頃のバブル景気真っただ中の時代と、花楽が社会人として旅立とうとしている現在。2つの時間軸が並行して進行する劇構成だ。
近藤は「自分が演じる克に共感はすごくありますね。克は噺家、自分も俳優で、同じ芸事をしている人間同士。しかもどこか自分のことをはすに見ているところも共通している。彼の苦悩や葛藤はよく分かります」と語る。
横山作品ならではの劇構成
横山作品には初出演だが、かつて東京都目黒区にあった「こまばアゴラ劇場」で舞台を見たことはあった。「そのお芝居は不条理劇のにおいがしましたが、今回は、今の克と若い頃の克の話が説明なしに同時進行する。わざとお客さんに知らせないというか、そういう劇構成は横山さんならではかなと思います」と話す。
横山独特のシビアだが、人間を見る温かな視線が、この家族の未来に一筋の光をもたらすように思える。近藤は「どんな成功者にも屈辱的なこともあったでしょうし、うまくいかなくて悩み尽くして闘ったこともあったと思う。今回は自分の中にもある、そういう部分を引き出して演じたい。でも、噺家や俳優でなくても、何をやってもうまくいかない瞬間って、きっとどなたの人生にもあるんじゃないでしょうか。そこが大きな共感で、本作の素晴らしいところだと思います」と語る。
京都移住で「生活が一番に」
19歳で劇団青年座研究所に入所。その後はコメディーの味わいの濃い劇団七曜日にも所属した。現在は三谷幸喜作品の常連として活躍しつつ、劇団☆新感線をはじめ多くの舞台、映像で独特の存在感を発揮する。そんな近藤にとって最大のターニングポイントは数年前、結婚を機に京都に移住したことだという。
「不思議なご縁で恋に溺れ、不思議なご縁で京都に呼ばれたという感じですね」と言い、「東京にいる頃はお仕事が一番、生活は二番でした。でも京都に移り住んでからは、生活が一番になりました」。東京時代は演劇や業界関係者との付き合いがほとんどだったが、京都に移住してからは「今までお付き合いのなかったようなケーキ職人の方とか宗教学者の方とか、思ってもみなかった方々と交流している。それがすごく楽しい」と温かな笑顔が広がった。
今後は「流れのままに」と話す。ただ、夢もある。「演劇には人を癒やす効果や立場や年齢を超える力がある。一般の人たちにも演じる楽しさを知っていただきたい。今度はそういう活動も考えたいですね」
「フタマツヅキ」の京都公演は9月5、6の両日、京都市下京区の京都劇場で。問い合わせはインプレッション(impression.contact1@gmail.com)。



