「奇想の画家」ともいわれ、葛飾北斎と並んで海外でも人気の高い浮世絵師、歌川国芳(1797~1861年)。京都市京セラ美術館(同市左京区)で開催中の「浮世絵スーパークリエイター 歌川国芳展」(産経新聞社など主催)は、勇壮なスペクタクルからクスリと笑える戯画まで、幅広い画題で江戸後期の庶民を楽しませた人気絵師の作品を6幕の芝居仕立てで紹介している。
新たなヒーロー像
江戸日本橋で染色業を営む家に生まれ、幼いころから絵に親しんだ国芳は、12歳の時に当時の人気絵師、歌川豊国の弟子になったといわれる。世に出るのは30代初め。中国・明時代に書かれた『水滸伝』や、曲亭馬琴が著した『椿説弓張月』『南総里見八犬伝』に登場する英雄・豪傑をアクション活劇風に表現した作品が、市中の評判を呼んだのだった。
国芳は刺青の入った筋肉をむき出しに敵をなぎ倒すマッチョマンや楼閣の屋上で大立ち回りを演じる剣士の姿を新たなヒーロー像として提示することで、閉塞感の漂う時代に、ちょっとした爽快感をもたらした絵師だった。
ネコがモチーフに
「いかつい」劇画イラスト調の作風を打ち立てて人気となった国芳だが、一方で「かわいい」あるいは「おもしろい」ギャグ漫画風の作品も、多数残している。その重要なモチーフとなったのが、大好きだったネコだ。明治の浮世絵研究者、飯島虚心の『浮世絵師歌川列伝』によると、国芳は常時5、6匹のネコを飼っており、作画中も懐に子ネコを抱いていたほどの愛猫家だったそうだ。
役者絵まで禁じられるほど倹約が旨とされた天保の改革期。それでもなお国芳は、戯画化、擬人画化などさまざまな手段を使い、幕政を風刺する役者絵を描き続けた。ネコはその舞台にも頻繁に登場する。たとえば、「荷宝蔵壁のむだ書」は、役者をあえて壁の落書き風に下手に描き、「大でき」の文字の横にひょうきんな姿でネコを描き込むことで、これが落書きであることを念押しするという手の込んだ風刺画である。
ネコを擬人化した戯画「流行猫の狂言づくし」なども、倹約令を笑い飛ばすような不敵な趣を持つ。そのほか、歌川広重の「東海道五十三次」のシリーズにならって日本橋から京までネコの生態や好物などを並べ立てた「其まゝ地口猫飼好五十三疋」のようなパロディーもあれば、札付きの悪人が羽織る着物のどくろ柄を、白ネコを組み合わせてデザインした「国芳もやう正札附現金男 野晒悟助」のような粋な作品も描いた。
着想に狂歌も影響?
「国芳には昵懇の間柄の狂歌師がいて、作品のアイデアはその人物と話し合っていたといわれています。幕政に対する批判精神が作品に表れるのは、狂歌の影響もあるのでは」とは監修の福島県立美術館学芸員、月本寿彦さん。政治が爛熟した文化を力でねじふせようとした時代に奇抜な表現方法を次から次に編み出し、反逆精神とユーモアで江戸っ子たちを魅了した国芳。質の高い浮世絵作品が並ぶ同展では、その型破りな絵師の魅力を存分に味わうことができる。同展は9月23日まで開催。



