トム・クルーズ主演の映画『DIGGER/ディガー』が、TOHOシネマズ日比谷などで公開中だ。本作の予告編を劇場で見て、多くの人が思ったのではないか。「この腹の出たおじさん?」。そう、それで間違いない(もちろん特殊メイクだ)。その役柄は、権力にとりつかれた強欲な石油採掘会社のトップで、超長寿の瀕死の猫を溺愛しているというクセの強さ。監督は、映像にこだわり抜く巨匠アレハンドロ・G・イニャリトゥ。なんと情報過多の映画だろう。
ディガーとは何者か
ディガーはトムが演じる男の名だ。その名の通り、北極圏の氷を掘りまくり、環境破壊など気にすることなく石油採掘を推し進めている。自信過剰で、部下を振り回し、顧みることがない。この自己中心的な態度は、「ドリル、ベイビー、ドリル(掘って掘って、掘りまくれ)」と呼号して化石燃料採掘を推進する、どこかの国の大統領をいやが応でも連想させる。
しかし、そんなディガーにピンチが。掘りすぎたせいで巨大な氷山が裂け、欧州に向かって漂流を始めてしまう。大陸に衝突したら大惨事だ。ディガーは、同じように自己中心的なコンプソン大統領(ジョン・グッドマン)から対応を求められ、事態の収拾のために立ち上がる。これは物語のほんの出だしだが、それでも作品に詰め込まれた過剰なほどのエネルギーが想像できよう。
トム・クルーズの新境地
自分たちの保身しか考えない政治家に責め立てられ、誇大妄想に陥っていくディガーを演じきるトムは、間違いなく新境地を切りひらいた。約10分にもわたる大演説のシーンは、よくぞ演じきったと思わせるすさまじい迫力で、トムの血管が切れないか心配になった。決死のスタントがあるわけではないが、トップを走り続ける俳優の気概を、新たな形で目撃することができる。
一方、物語はどうか。全編を通じて、現代の世相を皮肉るブラックジョークや風刺がてんこ盛りで、英国のコメディー集団「モンティ・パイソン」のコントもほうふつとさせる。ただし、単なるコメディーでは終わらせないのがイニャリトゥ監督だ。切れ味の鋭い変化球を用意しており、最後の最後まで驚かされるが、それは劇場で。
映像美と挑戦
フィルムで撮影され、セットで徹底して作り込まれた映像に触れないわけにいかない。美しくもあり、グロテスクでもあり、どのようにして撮ったのか分からず、混乱させられる。頭をわしづかみにされて振り回されたような感覚に酔った。たぐいまれな奇想を詰め込み、その上で世界の戯画を描いてみせる。一級の俳優と監督の挑戦に撃ち抜かれた。(読売新聞文化部 浅川貴道)