スピルバーグ監督「ディスクロージャー・デイ」映画評 情熱と真実描くSFスリラー
スピルバーグ「ディスクロージャー・デイ」映画評 情熱と真実

映画監督スティーブン・スピルバーグは、折に触れて宇宙に存在するのは「われわれだけではない」ということを自作の題材にしてきた。「ディスクロージャー・デイ」(10月1日公開)は、その新たな一本だ。エイリアンや未確認異常現象(UAP)、隠された真実など、スピルバーグが繰り返し描いてきた事柄がちりばめられているが、焼き直し感はゼロ。アクションとサスペンスとユーモアの絶妙なコンビネーションで、観客を映画の世界に引き込んでいく。その手腕、その尽きせぬ情熱にすごみを感じずにはいられない。

地球外生命体の秘密をめぐる攻防

地球外生命体に関する秘密をめぐって繰り広げられる攻防を、豪勢なアクションとともに描いたSFスリラー。真実を隠ぺいしてきたのは「ワーデックス」なる政府の下請け組織だ。それに反旗を翻した者たちが、ワーデックスの脅威に追われつつ、タイトルにもなっている「開示の日」に向かって突き進む逃走劇でもある。

人々に真実を伝えるために大きな役割を果たす主人公は2人。1人はワーデックスに勤めていたサイバーセキュリティーの専門家ダニエル・ケルナー(ジョシュ・オコナー)。もう1人はテレビの天気キャスター、マーガレット・フェアチャイルド(エミリー・ブラント)だ。彼と彼女は互いに面識はないが、共通点がある。2人とも一見凡庸で、今一つパッとしない人生を送ってきたが、実は並外れた能力を持つ。それはどうやら大人になる前の体験と関係しているらしい。

隠された過去と現実へのまなざし

2人は一体何を体験したのか。この映画は、暴露作戦の行方を追いながら、主人公たちの秘められた過去にも分け入っていく。ワーデックスを率いるノア・スキャンロン(コリン・ファース)と、人類の未来のためにスキャンロンとたもとを分かったヒューゴ・ウェイクフィールド(コールマン・ドミンゴ)の命運を見つめながら。

12月に80歳になるスピルバーグは、言わずと知れたアメリカ映画界の中心人物。1975年の「ジョーズ」、77年の「未知との遭遇」で世界的ヒットメーカーとしての地位を確立し、半世紀以上にわたって大衆芸術としての映画の力で人々をつないできた。「シンドラーのリスト」「プライベート・ライアン」など現実・史実を見据える重厚な映画を手がける一方で、空想力を駆使した娯楽作、とりわけSFというジャンルに立ち返ってきた。

重厚な作品とSF、両者の構成要素は時には奇妙な混ざり方をして、2008年の「インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国」のような、いびつな作品も生まれたりする。だが本作は幸福なハイブリッドだ。為政者による情報操作への不安や、きなくさい空気が一向に消えない現実が、物語をより切実に感じさせている。17年の「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」を撮った時以上に。

スピルバーグの情熱と映画への信仰

スリルを途切れさせず、息抜きとなる笑いも盛り込みながら、物語は走っていく。非日常的な冒険物語だが、絵空事だという感じがしない。映像の構図、アクションの迫力とリズム、あやなす光と影……。スピルバーグは映画を構成するあらゆる要素を見事に操って、観客を夢中にさせる。何よりも本作に魅力的なすごみを与えているのは、スピルバーグの映画への思い――情熱、信仰、そして危機感ではないかと思う。

スピルバーグ作品におけるUFOやUAP、あるいは地球外生命体の存在は、しばしば映画そのものの寓意と解釈されてきた。「未知との遭遇」の歴史的惹句「We are not alone」は、宇宙にいるのは「われわれだけではない」とも、共にスクリーンを見つめている「私たちは孤独じゃない」とも訳せる。

50年前の映画体験と現代のそれは違う。多様な観客が同じ映画館で同じ映画を見て何かを共有することはかなり減った。でも、それでもやっぱり、どんな形であれ、映画を見て心震わせている限り、私たちは孤独ではないのではないか。劇中、テレビキャスターが「ご覧になっている皆様」に向けて発する言葉をかみしめたくなる。本作はその点でも「未知との遭遇」と響き合う、対をなす作品と言える。

映画の可能性をスピルバーグはあきらめない。それどころか、映画への情熱はいや増してすごみを増しているように映る。たとえば、車と列車が絡むスタントシーンの問答無用の迫力は、テレビ映画として撮った71年の「激突!」の頃から温めていたアイデアの“完全実現”だという。情熱、無尽蔵。真実に迫るためにヒューゴが作る空間が、さながら映画セットのようであることは、何やら象徴的だ。

もう一つ特筆すべきは、マーガレット役のブラントのすばらしさだ。彼女は俳優にとって難しいことをするりとやってのける。波乱に富んだ役柄をごく自然に演じて、観客の心をつかむ。ブラントによるマーガレット像が魅力的だからこそ、その子ども時代の記憶――他者との美しき邂逅の光景――も心から離れなくなる。

「ディスクロージャー・デイ」(原題:DISCLOSURE DAY)は、上映時間2時間25分、字幕翻訳は松浦美奈、日本語吹替翻訳は小寺陽子、配給は東宝東和で、10月1日に全国公開された。