アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督は、トム・クルーズ主演の映画『DIGGER/ディガー』(10月9日公開)について、構想から実現までの9年間を「現実が想像を追い越した」と振り返った。5日に都内で行われた来日記者会見やインタビューで、変わり続ける世界を描く難しさと、映画に託す思いを語った。
風刺からドキュメンタリーへ
本作の主人公ディガー・ロックウェルは、利益最優先の傲慢な石油採掘会社CEO。その欲深い行動が地球滅亡の危機を引き起こし、大統領から事態収拾を命じられる。
企画の出発点は、実際に体験する現実と、その現実について語られる言葉がかけ離れていく感覚だった。9年前、共同脚本のサビーナ・ベルマンとその違和感について話し始めたという。当初のタイトルは『Blah Blah Blah』で、「ぺちゃくちゃ」「ああだこうだ」といった意味。言葉は人を奮い立たせ、現実への橋を架ける一方で、現実認識を壊す武器にもなる。その力を使う人物として、ディガーの物語が生まれた。
風刺にするため、現実の出来事をさらに極端に膨らませ、人間が現実を否認した結果の破局を描こうとしていた。しかし、脚本を書き続けるうちに、想像した出来事が実際に起こり始めた。
「現実が私たちを追いかけてきて、ついには追い越していったんです」。架空の状況が短期間で現実になっていくことに恐ろしさを感じ、「気がつけば、風刺ではなく、ほとんどドキュメンタリーを作っているようになっていました」と振り返った。
若い世代の反応に感じた映画の力
映画が世界に何ができるのかについて、監督は「残念ながら、映画が世界を直接変えられるとは思いません」と答えた。それは「大海に落とす一滴の水のようなもの」で、世界を劇的に変える力まではないが、「人々のものの見方を揺さぶり、対話を呼び起こすきっかけにはなり得ます」と語った。
その力を感じたのが、若い観客から届いた反応だった。「この映画を観て、自分たちの感情が理解されたと感じた」という言葉が特に印象に残っているという。
「今作に最も情熱的に入り込んでくれたのは若い世代でした。彼らは劇中の世界を『まさに今、自分たちが生きている世界だ』と直感的に認識してくれたからです」
普段なかなか言語化できない感情に映画が触れた。監督は、人々の心に確かなインパクトを残すことに映画の力を見いだしている。一方、大人の観客には居心地の悪さを感じる人、露骨に拒否反応を示す人もいるという。それこそ心に刺さるものがあるからだと捉え、「私は『心の通ったコメディや風刺』が好きなんです」と話した。
観客を「共謀者」に
観客を単なる受け手にしないことも演出で重視した。時間と空間を自在に扱い、緊張感と楽しさで物語に引き込む。「観客には単なる受け手ではなく、私の『共謀者』になってほしいと思っています」と監督。会見でも、現実から距離を取り、自分たちを見つめ直すために、完成した映画のような“構成”が必要だったと説明した。
「私は若い世代のことを考えながら、この映画を作りました」と語る監督。「答えが用意されているわけではありません。でも、この映画について話し始めることはできる。そのきっかけになってほしいんです」と、観客との対話に思いを託した。