圧政中国に抵抗する『翔べ、ワイルド・スワン』評・楊海英氏が語る共鳴と弾圧の記憶
圧政中国に抵抗する『翔べ、ワイルド・スワン』楊海英氏が評す

文化人類学者で静岡大教授の楊海英氏が、ユン・チアン著『翔べ、ワイルド・スワン』(土屋京子訳、光文社・2970円)を書評した。著者の母親と自身の経歴からなる本書は、現代中国の社会史であり、評者とも多くを共有する内容だという。

著者と評者が共有する中国の記憶

著者は1978年に中国から英国へ留学し、恋に落ちた。83年頃に北京はようやく外国人との結婚を禁止する法令を廃止した。評者はその時に北京の外国語大学に入ったが、外国人との恋愛は論外だと命じられたという。タブーを破って米国留学中に現地青年と恋愛した女子学生を、学長は全校集会で非難した。学長は毛沢東のロシア語通訳だった。

批判と弾圧の共通体験

執筆活動を始めた後の経験も近似している。名著『ワイルド・スワン』が40カ国超で翻訳されて千数百万部のベストセラーになった著者も、著作の部数では後塵を拝してきた評者も、文献の使用が偏っているとか、現場の声に偏りすぎると等しく批判を浴びた。それ以上の攻撃は、読者自身で作り上げた対中イメージからだった。エドガー・スノーの『中国の赤い星』が描くプロパガンダの世界を事実と思い込んでいた人たちである。

あるいは元米国務長官キッシンジャーのように毛沢東と性的会話を楽しんでいた人物も、自身に中国の負の一面が及ぶ可能性があると見ると、著者との会話を否定したり微修正したりする。毛沢東の怒りを招いた人物は日本にもいたと著者は書いているが、そのような人々は評者の取材にも応じようとしないで今日に至る。

書き続ける運命

著者は世界中で講演に招かれるが、親中派による妨害も頻発する。評者も日本で似たような中国からの越境弾圧を経験してから、公開の場で話すのを控えている。無限の愛を娘に注ぎ、最大の理解者だった母親の臨終の場に著者はいなかったし、評者も父親が4年前に他界して以来、墓参りも実現できていない。いずれも、中国政府が許可を出さない悲哀である。

著者も評者も中国の圧政に抵抗するために書く運命を共有しているようで、これからも書き続ける。批判と攻撃を覚悟のうえで。