金ボタンが煙草をくわえると、車椅子で口を半びらきにしている老人の血圧を測っていた看護婦がちらりと見た。笑みを返しながら煙草をしまおうとする金ボタンを蝙蝠が手で止め、ずんぐりした指を二本立てる。金ボタンが煙草を渡すと、蝙蝠はそれを耳に挟み「それより」と金ボタンを見た。
「忙しいお前がなにしに来た。めずらしく感謝なんか口にして、ますます気味が悪いじゃないか」と蝙蝠は言う。金ボタンはわずかに姿勢を正し、「外国でホテル以外の経験を積んでこようと思う」と告げた。驚いた蝙蝠に、金ボタンは「もう年齢的にも最後のチャンスだろうしな。艦長の国にある高級クラブだ」と説明する。
蝙蝠の冗談と煙への言及
蝙蝠は意地の悪い笑みを浮かべ、「出鱈目な燕尾服の襟にスパンコールをつけた興行師になるってわけか! 俗物のお前にはぴったりだな!」と笑った。金ボタンは「映画の都でスターになったとでも、大統領夫人の愛人の座におさまったとでも、好きに噂をたててくれて構わない。数年で戻ってくるつもりだ」と応じ、立ち上がる。
すると蝙蝠は「お前がいなくなったら煙はどうするんだ」と尋ねる。金ボタンが「さあ? そのうち、泥まみれの姫君と駆け落ちでもするかもしれないな」と返すと、蝙蝠は鼻で笑いながら「ザックと? 噂話のセンスがないな」と語る。金ボタンは黙ったままだった。
煙が去るとき
蝙蝠は「煙がそんな理由でホテルを離れるわけがない。出ていくことがあるとしたら、針金のように引き継ぎの者以外、誰にも告げずに去るだろうさ。あくまで自分の判断で。そんな時、煙がホテルを託すことができるのはお前以外にいないだろう。そんなこと、猜疑心まみれの私でもわかることだ」と述べる。
金ボタンは少年に戻ったようにそっぽを向き、片足を小刻みに動かしていたが、「まだ俺がベルボーイだった頃」と口をひらく。蝙蝠は「小賢しいガキだったな」と笑った。



