電子メディアによって空間を超えるコミュニケーションが可能になった状況を指す「地球村」という言葉は、かつて希望とともに語られた。しかし今日、炎上や分断といった現象は、さながら「村社会」の暗黒面の引き写しである。なぜこうなってしまったのか。本書を読めば、答えはおのずから明らかになる。
「村社会」の性質がネットで増幅
本書によれば、「村社会」は人類の根源的性質に根ざしており、ネットはそれを利用し、強める仕組みを内蔵している。このプロセスを理解するために、本書は「累積的文化学習論」を提唱する。その内容はきわめてシンプルだ。人は他者をまねることで生存に必要な知識を学び、社会の中で蓄積してきた。現代のネット世論の動向を、人類の持つこうした性質の派生として捉えようというのである。
例えば、学習するためには、基本的に相手が真実を語っていると信じねばならない。そのため人類は、評判や制裁、さらにはそれらと関連した情動を発達させることで、信頼できる集団を形成してきた。炎上をはじめとするネット上の種々の分断は、こうした共同体を形成しようとする営みなのである。
実データ分析と処方箋
特筆すべきは、本書がこれらの知見をもとに、現実のネットの膨大なデータを実際に分析している点だ。そこでは、前述した人類の性質を利用して利益を生み出すITプラットフォーム企業の在り方があらわになっていく。
彼らの構築したシステムが隅々まで浸透している社会に処方箋はあるのか。本書はその一つに、学術やマスコミの役割を挙げる。分断された複数の共同体を見渡せる地図を提供すること、そしてそれが機能する程度に社会から信頼されること。実は本書自体、その一つの実践例にもなっている。
データと真摯に向き合い、文理を超えた学問的知見を総動員することで「地球村」の歩き方を構築しようとする、決意に満ちた大著である。



