47都道府県を取材してきた編集者が、地方移住の成功には移住先を選ぶ前にまず自分自身を「知る」ことが大切だと説く。気になる地域に定期的に通いながら、お気に入りのお店や風景を少しずつ増やしていくことも有効だ。ポータルサイトで地域の相場やベースとなる情報をつかみつつ、最終的には現地での信頼関係を築いた先に、本当に相性のよい物件との出会いが待っているという。
信頼関係を築く「一番簡単ですぐにでも実践できること」
知らない土地で信頼関係を築く方法について、徳谷さんは「一番簡単ですぐにでも実践できることは、『歩くこと』だ」と話す。住みたいエリアを実際に歩き、すれ違った地域の人に挨拶をしてみる。ひと言、二言でも言葉を交わし、小さなコミュニケーションを少しずつ積み上げていくことが重要だという。
信濃町に移住後、大型犬を飼い始めた徳谷さん。日々の愛犬との散歩も、集落内でのコミュニケーションのきっかけになった。
「歩いていると、挨拶されることがある。それがポジティブな場合もあるし、何者だろうと確かめるために声をかけるという人間の機能でもある。何度かそれを重ねて『こいつ大丈夫かも』と思われたら、『家を探してるの? あそこに空き家があるよ』といった現地にしかない生の情報が入ってくる。ロールプレイングゲームのコマンドみたいな感じで、何回か話しかけないと開かない扉みたいなイベントが起きるんですよ」
家主の人徳と土地の歴史を見極める
ニッチなテクニックとして、徳谷さんは「その家に住んでいた家主の人徳や、その土地にたまっている歴史と文脈を見極めること」を挙げる。実際に徳谷さん自身が信濃町で購入した家も、もともとは地元の木材会社の社長が住んでいた物件だった。
古民家にリノベーションを施した徳谷さんの自宅について、こう説明する。
「まず木材会社の社長がつくる家は、立派な材料が使われていそうじゃないですか。腕利きの大工もまわりにいるだろうし。きっと丈夫だろうなと。ここがまず購入のポイントです。さらに隣の家主は、幼いころからその社長との付き合いがある人物で、引越してきたときに『この家をよろしくね』と声をかけて受け入れてくれた。『どこに住んでいるの?』と聞かれたときに、『以前○○さんが住んでいたところです』と言うと、『あぁ、あのお家ね』と近隣住民からの反応もいい。『あそこんちの人はいい人だったんだよな』という家の次の住人は、近隣からの期待値が勝手に上がるんです」
移住の「失敗」を恐れる前に
こうして地域に受け入れてもらえた徳谷さんの話は、移住後の人間関係をポジティブに描いている。しかし、2023年に行われた国土交通省の調査によると、都市部から地方移住を考えている人の中には、「人間関係や地域コミュニティへの不安」を移住のネックとして挙げる人は少なくない。
地方のコミュニティで干渉が生まれることを「田舎の問題」と語る人は多い。しかし徳谷さんの見方は違う。
「干渉は生きている上で100%起きるものなので、干渉を気にするのであれば地方移住はちょっと考え直した方がいいかもしれない。隣人の顔の見えないマンションがその逆ですよね。自治会や集落という単位では、顔が見えないといけないし、何かあったときには助け合わなければならない。その関係性は、緊急時にこそ力を発揮します。普段の挨拶や、顔を見て話すことから生まれる関係性がある。干渉は煩わしい悪いものではないという、自分の中のイメージの書き換えが必要です」
次ページでは「スローライフ」は実はハードルが高いという話題に続く。



