インドネシア政府は5月19日、国内全土で米スペースX社の衛星ブロードバンドサービス「スターリンク」の試験運用を開始したと発表した。通信インフラが未整備の遠隔地や離島でのインターネット接続を改善し、特に保健分野での活用を優先する方針だ。
試験運用の背景と目的
インドネシアは約1万7千の島々からなる世界最大の群島国家で、国土の多くが山岳地帯や密林に覆われている。この地理的条件から、従来の光ファイバーや携帯電話基地局による通信網の整備は難航しており、国民の約3分の1にあたる約8千万人がインターネットにアクセスできない状況にある。
政府は「デジタル格差の是正は国家の優先課題」と位置づけ、2024年初頭からスターリンクの導入を検討してきた。今回の試験運用は、保健省と通信情報省が連携して実施するもので、遠隔地の医療施設にインターネット接続を提供し、遠隔診療や医療データの共有を可能にすることを目的としている。
保健分野での活用を優先
ブディ・グナワン・サディキン保健相は声明で「スターリンクの試験運用により、これまでインターネットが使えなかった遠隔地の医療施設がオンライン診療を行えるようになる。これは医療アクセス向上の大きな一歩だ」と述べた。
具体的には、東ヌサトゥンガラ州やパプア州などの僻地にある保健所や診療所にスターリンクの端末を設置し、遠隔診療システムの試験運用を開始する。これにより、専門医の不足する地域でも、都市部の病院と連携した診療が可能になると期待されている。
試験運用の規模と今後の展開
今回の試験運用では、まず国内の医療施設約1万カ所へのスターリンク端末設置を目指す。政府は試験結果を検証した上で、教育や防災など他の分野への展開も検討する方針だ。
通信情報省の高官は「スターリンクは低軌道衛星を利用するため、地上設備が少なくて済み、インドネシアのような地理的条件に適している。試験運用で実用性を確認し、年内の本格運用開始を目指す」と説明した。
課題と懸念
一方で、専門家からはコストや持続可能性への懸念も出ている。スターリンクの端末代金や月額利用料は一般のインドネシア国民にとって高額であり、政府の補助金なしでは普及が難しいとの指摘がある。また、衛星の軌道変更による天体観測への影響や、宇宙デブリ問題も課題として挙げられている。
インドネシア政府はこれらの課題に対応するため、国内通信事業者との連携や、低所得者向けの料金補助制度の導入を検討している。



