SAPジャパンはこのほど、年次イベント「SAP Sapphire 2026」で発表した、AIエージェントを活用した企業変革のビジョン「Autonomous Enterprise」について説明した。
APAC カスタマーアドバイザリー統括本部 SAP Business AI Japan Lead 本名進氏は、「AIが自ら考え動く時代へ入りつつあるが、基幹システムでAIを使うことはハードルが高い。われわれはAIの精度を100%に近づけることを目指している」と、「Autonomous Enterprise」実現に向けた狙いを説明した。
従来の生成AIは質問への回答や文書作成が中心だったが、SAPはAIが業務プロセスをまたいで判断し、自律的に実行する段階へ進むと位置付ける。
本名氏は、企業でAI活用がパイロットフェーズで停滞している理由として「ビジネスとプロセスのコンテキストの欠如」「データ接続と連携の欠如」「ガバナンスと信頼性の欠如」を挙げ、同社はこれらを解決できると述べた。
SAPは、AI活用で必要となる「深いプロセス知識と業界の知識」「セマンティックリッチなビジネスデータ」「エンタープライズレベルのガバナンス」を持ち合わせているとして、「Autonomous Enterprise」を実現できると本名氏はアピールした。
「SAP Business AI Platform」と「SAP Autonomous Suite」を発表
「SAP Sapphire 2026」では、「Autonomous Enterprise」のキーコンポーネントとして、「SAP Business AI Platform」「SAP Autonomous Suite」が発表された。SAPは、Business AI PlatformでAIエージェントを構築・管理し、Autonomous Suiteで業務に組み込み、Joule Workで人との接点を提供することで、企業業務を自律的に実行する「Autonomous Enterprise」の実現を目指す。
SAP Business AI Platform
「SAP Business AI Platform」は、SAP Business Technology Platform(SAP BTP)、SAP Business Data Cloud(SAP BDC)、SAP Signavio、SAP LeanIXなどの機能を統合し、業務データやプロセスの文脈を理解したAIエージェントの開発と、ガバナンスの効いた安全な活用を支援する。
同プラットフォームは、「開発」「コンテキスト・推論」「ガバナンス」の3つの領域で構成されている。開発領域では、Joule Studioを通じて、開発者や業務部門のユーザーがAIエージェント、アプリケーション、ワークフローを構築できる。本名氏は、Joule Studioと一般的なAIコーディングツールの違いとして、SAPの業務プロセスやシステム構成のコンテキストを利用できる点を挙げた。SAP LeanIXが管理するシステムランドスケープの情報なども踏まえ、企業の環境に即した開発を支援するという。
コンテキスト・推論領域では、SAP Knowledge GraphやSAP BDCを活用し、AIエージェントが業務データの意味やプロセス上の関係性を理解できるようにする。ガバナンス領域では、SAP AI Agent Hub、SAP Signavio、SAP LeanIXなどを通じて、全社のAIエージェントの発見、管理、監査、統制を支援する。
本名氏は、同プラットフォームの中核となる製品として「SAP Knowledge Graph」を紹介した。SAP Knowledge Graphは業務データやプロセスの関係性をAIが理解しやすい形で整理する。SAPの700万以上のデータ項目に、AIエージェントが正しくアクセスすることを可能にする、「コンパス」として機能し、推論精度を向上させる。JouleやSAP BDC、Joule Studioに組み込まれ、一部製品で制限リリースが発表されている。
ERPなどの構造化された業務データに特化した予測・推論モデルとして、「SAP-RPT-1.5」のリリースが予定されている。このモデルは事前トレーニングなしで即座に予測を開始できる。「1つのモデルであらゆる業務プロセスに対応でき、学習は不要。個社での対応は限界がある」と、本名氏は同モデルの特徴を説明した。
SAP Autonomous Suite
「SAP Autonomous Suite」は、経理・財務、支出管理、サプライチェーン、人材管理、カスタマーエクスペリエンスの5つの業務領域に、自律実行AIアシスタントとAIエージェントを組み込んで、エンド・ツー・エンドでプロセスを自律実行する。
具体的には、「Autonomous Finance(自律型ファイナンス)」「Autonomous Spend(自律型支出管理)」「Autonomous Supply Chain Management(自律型サプライチェーン管理)」「Autonomous HCM(自律型人事管理)」「Autonomous CX(自律型カスタマーエクスペリエンス)」の5つの業務領域で展開され、数カ月以内に、200以上のエージェントと50以上のアシスタントが提供される予定だ。
カスタマーアドバイザリー統括本部 バイスプレジデント・統括本部長 織田 新一氏は、SAP Autonomous Suiteについて、「AI人材不足を背景に、企業の業務の進化を支える、業務ドメイン、インダストリー特化のスイートとして開発した。AIアシスタントを有効活用するには、働き方や組織を見直す必要があると考えている。AIアシスタントをリソースと見なし、人が統治する。AIアシスタントを仲間と見て、業務プロセスを見直す必要がある」と説明した。
ユーザーはJoule Workを通じて、Jouleと会話しながら業務を進める。チャットや音声で指示を出し、個々のアプリケーションを操作することなく、業務に必要な情報へのアクセスやアクションの実行につなげる。
SAPは、AIを既存業務に追加するだけでなく、人の役割や組織、業務プロセスをAIエージェントとの協働を前提に見直すことで、「Autonomous Enterprise」の実現を目指す。



