マウスコンピューターは「東京ゲームショウ2026」で、クリエイター向けPC「DAIV CX」を活用したゲーム開発における生成AIの活用事例を紹介した。大規模言語モデル(LLM)のローカル実行から、キャラクターの音声生成、ゲームの自動デバッグ、画像・動画生成まで、実演を交えて解説した。
登壇者はバリーンスタジオ Creative Tech Lab.所属・デジタルハリウッド大学大学院 教授の新清士氏とマウスコンピューター 製品部 デスクトッププロダクトマネージャーの林田奈美氏。司会はゲームキャスターの海老江邦敬氏だ。
DAIV CXの特徴とローカルAIのメリット
マウスコンピューターはクリエイター向けブランド「DAIV」でローカル生成AIに向いたDAIV CXを8月24日に発表した。最初の製品となるDAIV CX-A9A60はRyzen AI MAX+ 395を使用し128GBのメモリを搭載している。
128GBのユニファイドメモリのうち、最大96GBをGPU用に割り当てられることが特徴だ。外付けのハイエンドGPUと比べて処理速度では劣るものの、大容量のメモリを必要とするLLMをローカル環境で実行できる。そのため、大規模LLMを手元で利用したいユーザーにとって、有力な選択肢となる。
新氏は、ゲーム開発におけるローカルAIとクラウドAIの使い分けについて説明した。DAIV CXのような環境でローカルAIを利用するメリットとして、3つのポイントを挙げた。
1つ目は、大規模LLMを手元で利用できることだ。クラウドAIと比べて処理速度では劣る場合があるものの、外部のサービスに依存せず、大規模LLMを実行できる。
2つ目は運用コストだ。クラウドAIでは、LLMを繰り返し利用するとトークン数に応じて費用が増える場合がある。一方、ローカルAIではPCの導入費や電気代などは必要になるものの、APIの従量課金を気にせず反復処理を実行できる。
3つ目はセキュリティだ。ローカル環境で処理を完結させれば、開発中のゲームデータや社内情報を外部のAIサービスに送信する必要がなくなる。情報漏洩のリスクがなくなるわけではないが、機密情報を扱いやすい点はメリットとなる。
ゲーム開発現場でのローカルAI運用のポイント
ゲーム開発現場においてのローカルAIの運用のポイントは繰り返し発生する仕事から組み込むのが効果的だという。
ゲーム作製現場ではキャラクターの会話やキャラクターボイスというところで繰り返しの利用がある。また、資料の分類や要約といった制作データの整理、ログの整理やテスト結果の確認、デバッグ補助と言った確認作業支援にもローカルAIが有用だという。
使い分けもポイントで、設計やコーディングは速度が求められるため、クラウドAIで開発するのがよい。しかし、すべてクラウドAIで動かすのはコストアップに繋がる。
さらに、画像・動画生成などGPUに大きな負荷がかかる作業は、高性能な外付けGPUを搭載したPCで実行する。新氏は、クラウドAI、DAIV CX、高性能GPU搭載PCのそれぞれの特徴を生かして役割を分担することが、コストと作業効率の両面で効果的だと説明した。
4つの活用事例をライブデモで紹介
続いて、DAIV CXを使った4つの活用事例がライブデモを交えて紹介された。具体的には、LM StudioによるローカルLLMの実行、Rinon Voice Labによるキャラクター音声の生成、NeonSwarmを使ったAIデバッグ、百夜スタジオによる画像・動画生成だ。
最初に紹介されたのは、ローカル環境でLLMを実行できる「LM Studio」だ。DAIV CXでは最大96GBのメモリをGPU用に割り当てられるため、大容量のメモリを必要とするLLMにも対応できる。ただし、モデル本体のデータだけでなく、コンテキスト情報などの処理にもメモリを使用するため、96GBすべてをモデルの読み込みに利用できるわけではない。
新氏は、DAIV CXで実行する5つのLLMを紹介した。このうち、1200億パラメーターの「gpt-oss-120b」は、量子化形式MXFP4でファイル容量が63.39GBとなり、Windows上のLM Studioで実行できるという。また、81.27GBの「Qwen3.8 Flash Next」も同様の環境で実行する。一方、「GLM-5.3-Flash」はLinuxと専用ROCmを使用する構成となっていた。
次に紹介された「Rinon Voice Lab」は、LLMと音声合成技術を組み合わせ、キャラクターのセリフと音声を生成するツールだ。入力したプロンプトやシナリオに基づいてLLMがセリフを作成し、そのテキストを音声合成モデル「Irodori-TTS」に渡すことで、キャラクターの音声を生成する。
さらに、発展形として「FastH3 Date Chat」も紹介された。LM Studioで生成した会話と選択肢に応じて、FastH3を使ってキャラクターの短い動画を生成する仕組みだ。
自動デバッグと画像・動画生成、AI母艦構想
ゲームの自動デバッグでは、ワイヤーフレーム風のゲーム「NeonSwarm」を使ったデモが披露された。このゲームはAIを活用して約1時間で制作されたという。デバッグ用のツールもAIで制作し、DAIV CX上で動作させている。
デモでは、DAIV CX上のLM Studioで「Qwen3 4B」を実行し、ゲームを自動プレイした。ゲームの状態を数値データとしてローカルAIに渡し、次の行動を判断させて移動や射撃を実行する仕組みだ。AIの判断中はゲームを一時停止し、この処理を繰り返す。被弾状況や応答時間などを記録し、ログ分析を通じてバグの発見やゲームバランスの調整に役立てる。
クラウドAIでも同様の処理は可能だが、繰り返し実行すると大量のトークンを消費し、利用料金が膨らむ可能性がある。ローカルAIであれば、APIの従量課金を気にせず長時間の自動テストを実行できる。また、開発中のゲームデータを外部のAIサービスに送信せずに処理できる点も利点となる。
最後に紹介されたのは、百夜スタジオによる画像・動画生成環境だ。百夜スタジオは、画像管理ソフトにAIによる画像・動画生成機能を組み込んだもので、複数の生成AIモデルに対応し、1分以上の動画も生成できるという。
画像・動画生成には「ComfyUI」を使用する。ComfyUIは生成AIを使った画像・動画制作で広く利用されているツールだが、操作が複雑で、誰でも簡単に使いこなせるわけではない。そこで百夜スタジオを操作画面として利用し、LM Studioで動作するローカルLLMにプロンプトの生成や翻訳、整理を担当させる。生成したプロンプトなどのデータをComfyUIに渡し、画像や動画を生成する仕組みだ。
現在、百夜スタジオの処理は複数のPCで実行しているが、今後はDAIV CXに百夜スタジオとLM Studioを集約し、画像・動画生成は高性能GPUを搭載した別のPCに任せる構成を検討している。
さらに、DAIV CXをチームで共有する「AI母艦」として活用する構想も紹介された。クリエイターがそれぞれのPCからWeb経由でDAIV CXにアクセスし、ローカルLLMを共同利用することで、個々のPCに大規模LLMを実行する環境を用意する必要がなくなる。
新氏はローカルAIについて、初期投資は必要になるものの、APIの従量課金を気にせず利用できることはクリエイターにとって大きなメリットだと説明。今後、ローカルLLMの性能が向上することで、活用の幅もさらに広がるとの見方を示した。
一方、林田氏は、DAIVシリーズについて、あらゆるクリエイティブ制作に適した選択肢を提供するというコンセプトを掲げてきたと説明。1年前のコンセプトにはAIが含まれていなかったものの、生成AIの活用が急速に進む中、今回DAIV CXを投入できたことに手応えを示した。
今回の講演では、大規模LLMをローカル環境で実行できるPCが、ゲーム開発のさまざまな工程で活用できることが示された。特に、キャラクターの音声生成やゲームの自動デバッグなど、AIによる処理を繰り返す用途では、クラウドAIの利用料金を抑えられるメリットがある。
さらに、チームで共有する「AI母艦」という構想は、ローカルAIの活用を個人から組織へと広げるものだ。ゲーム開発の現場において、ローカルAIが制作環境を支える新たな選択肢となりそうだ。