三井倉庫ロジスティクス(MSL)と日本IBMは、現場社員が自ら課題を特定し、AIを活用した業務アプリケーションの企画から開発、運用までを主導する実践型のデジタルトランスフォーメーション(DX)人材育成モデルを共同で構築したと発表した。この取り組みは、MSLの物流現場における業務知見と、日本IBMのAI活用、AI駆動開発、人材育成、業務変革支援の経験を融合し、課題特定からAIによる解決までを現場で完結できる人材の育成を目指す。
物流業界の課題とDX人材育成の必要性
物流業界では深刻な労働力不足に加え、地政学リスクの高まりや災害の激甚化により事業環境が変化している。多様化する顧客ニーズへの対応やサプライチェーン管理の高度化が求められる中、従来の経験や属人的な判断に依存しない、データに基づく意思決定と業務最適化が不可欠となっている。しかし、デジタル技術を導入するだけでは現場の変革は進まず、現場業務を深く理解する社員自身が課題を特定し、デジタル技術を活用して解決策を実装・改善することが重要である。
こうした背景から、両社はそれぞれの知見と経験を融合し、現場主導でAI活用を推進するDX人材育成モデルを構築した。このモデルは、現場社員がAIツールの利用者にとどまらず、自ら課題を特定し、AIを活用して解決までを実践しながら学ぶOJT(On-The-Job Training)形式のプログラムである。参加者は物流現場や関連部門で業務に精通した社員から選抜され、日常業務と並行して取り組む。
人材育成モデルの概要とサイクル
同モデルでは、「現場起点での課題特定・定義」「AIを活用したアプリケーション開発」「運用・改善の継続」の3つのサイクルを通じて実践力を養う。まず、現場起点での課題特定・定義では、MSLの現場社員が日常業務の中から課題を発見・特定し、現場視点で要件を整理する。次に、AIを活用したアプリケーション開発では、日本IBMのAI駆動開発および業務変革支援のノウハウのもと、MSLの現場社員が主体となって業務アプリケーションの企画・開発を行う。日本IBMは課題整理からユースケース設計、アプリケーション開発、運用定着までを伴走支援する。最後に、運用・改善の継続では、開発したアプリケーションを実際の業務に導入し、効果検証と改善を繰り返すことで、現場主導の継続的な業務変革を推進する。
先行トライアルの成果と具体的な開発事例
本格展開に先立ち実施したトライアルでは、MSLの現場社員8人が参加し、実際の業務課題をテーマにAIを活用したアプリケーション開発に取り組んだ。開発事例として、過去の入出荷実績などのデータをもとに物量を予測し、最適な作業計画の立案を支援する「AI物量予測アシスタント」や、物流品質上の課題が発生した際に該当商品の画像データから原因の特定や再発防止策を提示する「物流品質解析ツール」などが挙げられる。これらのアプリケーションはすでに現場で運用を開始しており、現場主導によるAI活用の実効性が確認されている。現場社員が自ら課題を発見し、AIを活用した解決策を企画から開発・運用まで担えることを示すとともに、DX推進人材の育成と継続的な業務改善を両立するモデルとしての有効性が実証された。
今後の展開と目標
MSLは本モデルをDX推進人材育成の基盤と位置付け、今後3年間で参加者を50名規模へと拡大する計画である。現場から創出されたAI活用の知見やソリューションをグループ全体へ展開することで、物流オペレーションの高度化と新たな価値創出を促進し、社会課題の解決に貢献する方針だ。一方、日本IBMは現場課題の発見からユースケース創出、AIアプリケーション開発、運用・定着までを一貫して支援し、取り組みで培った実践プロセスを体系化して、現場主導でAI活用を推進する再現性のあるモデルとして展開する。今後もAI技術やAI駆動開発の知見に加え、人材育成・業務変革支援の経験を活かし、本モデルの高度化と展開拡大を支援していく考えである。



