ブレストで埋もれる「隠れ人件費」を削れ 未来総研がClaudeで「30分で100アイデア」創出の秘訣
ブレストの隠れ人件費を削減 未来総研がClaudeでアイデア創出

「新規事業のアイデアがまとまらない」「ブレインストーミングで貴重な時間を浪費し、目に見えない人件費ばかりが膨らんでいく」。多くの企業が悩むこうした課題に、市場調査の雄が新たなサービスを提案した。独立系総合マーケティング調査機関として、全産業の市場データを蓄積してきた未来総研(東京・中野区)によるAI活用型の新規事業アイデア創出支援サービス「AIDEL(アイデル)」だ。

「30分で100のアイデア提案」を掲げる同サービスは、同研究所が持つ膨大な市場データと、米Anthropicの高度なAIモデル「Claude」を融合させたものだという。簡潔(こうちゃく)しやすい新規事業開発のプロセスを効率化し、企業の意思決定を加速させる新ソリューションの展望について、未来総研のトップらに聞いた。

貴重な「隠れ人件費」を削れ 直感でアイデアを量産できる環境へ

AIDELは、未来総研が長年発行してきた市場調査レポートや共同通信の配信記事、特許情報などをAIが随時参照し、ビジネスアイデアを自動的に提案するシステムだ。システムの設計・構築・運用や保守・監視は、金融工学とITの融合やビッグデータ分析に強みを持つクオンツ・リサーチ(東京都港区)が共同開発パートナーとして担っている。

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開発を担当した未来総研未来企画室の古閑崇裕上級研究員は「顧客企業からアイデア発想の需要が増え始めた2023年頃から(AIDELの)構想はありました」と明かす。「当時はまだ生成AIが本格的に普及する前でした。事業計画を貴重に提出する前段階のブレストに膨大な時間を費やし、企業の貴重な人材などを長期間にわたって浪費する『隠れ人件費』がかなり膨らんでいることが大きな課題だったのです」

また、これまでの新規事業開発では、アイデアを発想するのに、専門性を有する高度なフレームワークが用いられがちだった。しかし一般の社員にとっては、専門知識やリテラシーの面でハードルが高く、心理的な抵抗感が強いという問題もあったという。結果として、一部の専門担当者や経営陣だけに負荷が集中し、ブレストの属人化を招いていた。今回、AIDELに最先端AIの高度な自然言語処理を組み込んだことで、専門知識や経験のない一般の担当者であっても、直感的に質の高いアイデアを量産できる環境が整ったという。

未来総研の水谷社長は「企業はアイデア創出のための議論に膨大な時間をかけていましたが、このサービスを使えば、その時間が節約できます。担当者は、もう一つの段階の問題解決、すなわち戦略の具体化や実行に注力できるようになります」と、業務効率化の利点を強調する。

「AIの知ったかぶり」を排除 特許と「一次情報」が鍵る3つの強み

現在、対話型AIモデルとしてChatGPTやCopilot、Geminiなどがある。しかし、水谷社長は「AIはある程度のことは『知ったかぶり』のように答えてくれますが、そのファクトチェックの担保が極めて難しい」と指摘する。一般的な生成AIによる提案では、根拠が不明なデータに基づいたハルシネーション(誤った情報の生成)や、外部へのデータ漏えい、著作権侵害のリスクが常に付きまとう。

その点、クローズドシステムで構築され、国内で厳重に管理されるAIDELには、3つの明確な強みがあるという。

第1の強みは、情報源の信頼性だ。活用するデータは、同社が自らリサーチしたオープンになっていない「クローズドな一次情報」や特許情報のみに限定している。古閑上級研究員は「基本的に確かなファクト情報を組み合わせるロジックを搭載しているため、ハルシネーションは起こり得ない仕組みになっている」と自信をのぞかせる。

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第2の強みは、自社の経営資源(リソース)と外部情報からの気付き(ヒント)を組み合わせるフレームワークだ。このフレームワークは独自のもので、特許を取得済みだという。

そして第3の強みは、複雑なプロンプト(命令文)入力が不要な操作性にある。気になるヒントカードを選んで「作成実行」のボタンを押すだけで、イメージ画像、概略説明、事業性評価、市場分析までを含む具体的な「アイデアシート」を自動生成する。

先行する競合サービスとの差別化について、水谷社長は「BtoC向けのアイデアを出すサービスは他にもありますが、われわれは全産業分野にわたる膨大なBtoB向けのビジネスデータを保有しています。この独自の一次情報を他社に抜かれないようにする仕掛けこそが、最大の差別化です」と語る。

共同開発したクオンツ・リサーチの西尾公祐社長「社内の反対派」を説得する武器に

記者会見では具体的なアイデア事例も発表したが、そのアイデアの質も実用的だ。例えば、個人の歩行癖、足圧分布データなどを保有するスポーツ解析企業に対し「データに基づく個人向けフィッティングサービスと、買い替え時のデータを利活用した専門中古(リユース)市場を組み合わせた循環型ビジネス」を提案する事例や、独居高齢者のデータベースを活用した「会員運営サポーターが参加するコミュニティハブ型のピラティス・スタジオ」の開設などが挙げられた。提案には、具体的な事業骨子が描き出されている。

最大の特徴は、これらのアイデアに対して、市場規模や成長性、実現可能性など複数の観点からAIが5段階の「総合評価スコア」を自動付与する点にある。

この客観的なスコアの存在は、実務上の大きな武器になりそうだ。企業における新規事業の開発は最も重要な経営課題である一方、誰かが「このアイデアは絶対にヒットする」と確信しても、社内の反対意見に潰されて立ち消えになるケースが後を絶たない。AIDELの評価シートは、そうした社内の反対派を説得し、事業参入の当否を冷静に検討するためのデータに基づく強力な根拠となる。

共同開発したクオンツ・リサーチの西尾公祐社長は「一般のマーケットが求める感覚や嗜好の予測サービスとは全く異なる性質のものです。金融機関の方々にも、金融の周辺ビジネスで新たな領域を探るための羅針盤として活用していただきたい」と、その狙いを説明する。

「アイデアの枯渇」を打ち破る 目指すは「3年後に5億円規模」

AIDELには、すでに新規事業開発に煩悶する大手企業やスタートアップ、コンサルティングファームからの問い合わせが相次いでおり、水谷社長は「早くも成約に至った企業が出始めている」と明かす。料金体系は、月額固定費とライセンス費用、従量課金で構成する。期間限定の無料トライアルを実施し、初期導入のハードルを下げることも狙う。

現時点では国内市場を中心とした評価からスタートする。今後は海外市場での分析機能も本格化させる計画だ。水谷社長は「3年後に約5億円のビジネス規模を目指したい。これは当社が提供するAIソリューションの『第1弾』であり、今後はさらに付加価値の高いソリューションを連続的に投入していく」と展望を語る。

バブル崩壊以降の「失われた30年」の中で、日本企業は世界を驚かせるような革新的事業を生みあぐねてきた。「アイデアの枯渇」という構造的な課題を前に、老舗調査機関の確かなデータと最先端AIの融合は、停滞する日本経済の軋を破る起爆剤となるか。その真価が問われるのはこれからだ。