不動産情報サービスのアットホームは、週3日以上生成AIを利用する社員の割合を、3月時点の47%から5月には70%へと、わずか2カ月で1.5倍に引き上げた。全社員1870人を対象とした「AI活用プロジェクト」の成果だ。注目すべきは、これを1人の元営業マネジャーが推進している点にある。
プロジェクトは初速が大事
2022年後半にChatGPTが公開されたとき、小出さんは生成AIに関心を持った。営業所長として、Excelで営業実績や成果のデータを分析し、戦略・施策立案に役立てていた小出さんは、ChatGPTで簡単にExcel関数やマクロを作れると知り「これを使えば、自分のやりたかったことができる」と可能性を感じた。
実際に業務で活用し、営業所のメンバー向けに紹介資料も作ったが、当時は全く反応がなかった。小出さんは「最近になって『あの当時の資料、見せてもらえますか?』と聞かれることがあるんです」と笑う。
その後、社内のデジタルイノベーションプロジェクトに手を挙げて参加し、営業現場の業務改善やAI活用を推進。それがきっかけで、AI活用プロジェクトの推進役に抜擢(ばってき)された。求められた役割は「全社員のAIスキルのボトムアップ」と「先端人材をより増やす」ことの2つだった。
「AIアンバサダー」 あえて初心者を集めた理由
小出さんはまず全社員のスキル底上げに着手し、Microsoft Copilot(以下、Copilot)の有償版を全社員分導入。週3日以上業務で利用する社員の割合を、3月時点の46%から5月に70%、8月に80%、12月に90%へ引き上げるという数値目標を設定し、8月の目標も同日時点で前倒しで達成した。
「初期段階でどかんと上げることが大事だと考えました。こういうものは直線的に上がっていくものではなく、最後はどうしても『AIはあまり好きじゃない』という人たちが残る。じっくり時間をかけて、じわじわと浸透させていく仕組みが必要だと考えています」
「初期の段階でどかんと上げる」は、どうやって実現できたのか。プロジェクト立ち上げ後まず実施したのが「AI推進マネジャー」の任命と「AIアンバサダー」の募集だ。「何か新しいことをトップダウンでやれと言ってもなかなか動かない。逆に現場から『やりたい』と声が上がっても、上長の理解がなければ話が進みません。そこで上長にはAI推進マネジャーを選出してもらい、現場からはAIアンバサダーという形で有志に集まってもらう。トップと現場の両方から動く仕組みを作ろうと考えました」
AI推進マネジャーは各部から1人以上の管理職を選出するよう依頼し、40人がその役割を務めている。AIアンバサダーは完全に手挙げ制で、スキルの有無は問わず、生成AIを自ら使ってみて社内に発信する意図のある人であれば誰でもなれる。現在534人が活動しており、約55%が営業系、それ以外にも事務系、管理系、経理系など幅広い職種の社員がいる。
経理のブラッシュアップ AIと人の両方に「育て役」
未経験者や初心者でも可としたのには理由がある。「AIに限らず、初心者には初心者なりの、上級者には上級者なりの悩みがあります。ですが知識や経験が増えて上級者になると、自分が初心者だった頃に何に困っていたのかをどうしても忘れてしまうものです」
「上級者だけでなく初心者にもアンバサダーになってもらい、今分からないことを発信してもらって社員同士で解決するのがいいだろうと考えました」結果、AIアンバサダーの8割以上を初級レベルの人が占めることになった。社内公開のグループチャット「AIやってみた!(成功も失敗も)」では、狙い通り「やりたいけど上手くいかない」という悩みと、それに対するアドバイスがやり取りされている。
例えば「Teamsから起動したCopilotでパワーポイントを作成したが良い出来ではなかった」という投稿に「PowerPoint内のCopilotなら良いものができた」という返答があり、利用するCopilotの選択が重要だと分かった例もある。「Excelのデータ資料をAIに渡して分析を依頼したが上手くいかない」という投稿から「人には見やすいが、AIには見づらい構造」だと判明したこともある。こうしたやり取りが公開の場でなされることで、投稿者本人だけでなく他の社員のためにもなっている。



