ニュースで見かけない日はないほど急速に発展する生成AI。書籍『AIドリブンの極意』は、その「AI革命」の最新事情を、多角的な取材で解き明かした一冊だ。単なる技術トレンドの解説にとどまらず、日本企業が直面する現実的な壁と、それを突破するための具体的な戦略が網羅されている。
アクセンチュア全面協力で描くAIの最前線
本書の原動力は、大手コンサルティングファームであるアクセンチュアの全面的な取材協力・監修だ。同社の保科学世氏(常務執行役員 AIセンター長。本書の監修者)は、各界の第一人者から深い洞察を引き出している。
落合陽一氏との対談:感情はリスクを取るエンジン
例えばアーティストの落合陽一氏との対談では、AIが人間の意思決定を代替していく中で「人間の役割とは何か」を鋭く問いかける。保科氏が「最適な意思決定がAIに及ばなくなる中で、人間に残された特徴は感情や美意識になるが、経営判断に感情はノイズにならないか」と問いかけるのに対し、落合氏は「リスクを取るためのエンジンとして、感情は極めて有効だ」と切り返す。ビジネスシーンにおける「感情」の意義について、アーティストや実業家としてマルチな活動を続けてきた落合氏の視点には説得力がある。
宗教界の重鎮と考えるAIガバナンス
さらに示唆に富むのは、京都宗教界の重鎮を迎えた異色の鼎談だ。その中で、世界で議論されているがいまだ答えのない「AIのガバナンス」という難題に対し、保科氏は伝統宗教の知見から解決のヒントはないかと問いかける。それに対して、石清水八幡宮の田中朋清氏は「浄明正直(じょうめいしょうちょく)」という神道の倫理観を援用する。そして、AIの内部に蓄積される偏見や虚偽を「絶えず見直して元の清らかな状態に戻す」ことの重要性を説く。これを「データクレンジング」の再評価につなげる保科氏の切り返しも当を得ている。AIがすべてを覆い尽くそうとしている社会において、最先端テクノロジーを制御するカギが、日本で千年以上培われてきた思想にあるという指摘は、これまでのAIガバナンス論と一線を画す視点だろう。
ベテランこそAI活用の主役になれる
最前線で活躍するアクセンチュアのコンサルタントたちが、率直に語り合う座談会記事も興味深い。印象的なのは、AI活用を巡る世代間の議論だ。一般にAI活用は「若手が有利」と思われがちだが、実務への応用において問われるのは「どれだけ筋の良いビジネス仮説を立てられるか」である。それゆえに、現場感や業務知識のある「ベテランこそ」がAI活用で主役になれると、コンサルタントは強調する。テクノロジーの進化が「古い世代の退場」を促すというステレオタイプな文脈ではなく、むしろ長年培われた暗黙知や経験という資産に新たな価値を見いだすものだと展望することは、日本の企業組織やビジネスパーソンにとって前向きで希望に満ちた指摘である。
フィジカルAIにおける日本の将来は明るい
独自取材による企業のケーススタディも読み応えがある。2023年に大手企業でいち早く生成AIを導入したパナソニックHDが直面する意外な苦悩や、一見風変わりな「AI-CEO」の構築によって三井住友フィナンシャルグループが描く戦略など、AI活用の最新事情を取材で深掘りしている。他にもJ:COM、関西電力グループ、インフロニアHD、JINS、GMOインターネットグループなど、さまざまな業種の取り組みが参考になる。
さらに本書は、今後の巨大市場として注目される「フィジカルAI」についても多くの紙幅を割いてその影響力を解説し、実用に向けた将来を展望している。ロボットなどと融合し現実空間で動作するフィジカルAIは、製造や物流、サービス産業の自動化などの分野において、現在の生成AIを凌駕する社会的インパクトをもたらす。また、この分野では日本が世界屈指のロボティクス技術を有する。短期的には学習データの取得や安全性の確保などにハードルがあるものの、少子高齢化と人手不足に直面する日本にとって、フィジカルAIの将来性は極めて明るいと強調されている。
本書は、目まぐるしく変化する「AI革命」の最前線を、多角的なアプローチによって立体的に浮かび上がらせることに成功している。単なるツール導入のハウツー本ではない。AIに対する視座を引き上げ、実務に取り入れ、真の変革を成し遂げようとするビジネスパーソンや経営層にとって、進むべき道を照らす一冊となるだろう。



