ドナルド・トランプ大統領は6月22日(現地時間)、量子コンピュータによる暗号解読の脅威に対抗するための大統領令「Securing the Nation Against Advanced Cryptographic Attacks」(大統領令14409)に署名した。この大統領令は、連邦政府の情報システムを、米国国立標準技術研究所(NIST)が承認した耐量子計算機暗号(PQC)へ移行する作業を加速し、移行の期限を明確にした点が特徴である。
量子コンピュータの脅威と「Harvest Now, Decrypt Later」攻撃
大統領令は、大規模な量子コンピュータが将来、広く使われている暗号方式を破る恐れがあると指摘。特に、敵対勢力が現時点で暗号化されたデータを収集しておき、量子コンピュータが実用化された後に解読する「Harvest Now, Decrypt Later」リスクに言及し、機密データや重要インフラ、デジタル経済を守るために暗号面の強化が必要だとしている。
各連邦機関は、価値の高い情報資産や重要度の高いシステムについて、鍵交換の用途は2030年末までに、デジタル署名の用途は2031年末までにPQCへ移行する。NISTは自組織のシステムの一部を対象にPQC移行のパイロットプロジェクトを実施し、2027年12月31日までに完了させる計画だ。
連邦調達規則(FAR)の改正とNIST FIPSへの準拠
さらに、連邦調達規則(FAR)を改正し、対象となる契約業者に2030年末までにNISTの連邦情報処理規格(FIPS)への準拠を求める方針も盛り込まれた。国防総省などは、重要インフラ事業者や外国政府・産業界に対してもPQCへの移行を働きかけるとしている。
トランプ大統領は同日、量子技術の商用化や実装を加速する大統領令「Ushering in the Next Frontier of Quantum Innovation」(大統領令14411)にも署名。この大統領令には、科学的発見を可能にする量子コンピュータや量子センサー、ネットワークを今後5年間で開発・実用化する国家的な取り組み(QC-ADDS)を開始することが盛り込まれた。
署名式にはIBM、Google、Alphabetのトップが出席
署名式には、米IBMのアービンド・クリシュナCEOや、米Alphabetおよび米Googleのプレジデント兼CIO(最高投資責任者)を務めるルース・ポラット氏なども列席した。ハワード・ラトニック商務長官は、連邦政府がIBMの製造施設に投資しており、同社が米国で量子チップを製造することになると述べた。Googleについては、量子技術の構築に素晴らしい投資を行っていると述べた。ポラット氏は、米国で製造された新しい「Willowチップ」により、従来の最高性能のスーパーコンピュータで10の25乗年かかっていた計算を5分未満で完了させた成果をアピールし、医療や材料科学への貢献、およびPQCによる安全性確保への意欲を示した。
関連する動き:GoogleのPQC移行目標2029年、NISTのアルゴリズム選定
関連して、Googleは量子コンピュータによる暗号解読の脅威に対抗するため、PQCへの移行目標を2029年に前倒しすると発表。データの先取り攻撃や電子署名へのリスクを考慮し、「Android 17」でのPQC導入など具体策を急ぐ。また、NISTは2024年に「ポスト量子暗号」標準を公開する計画で、4つのアルゴリズムを選定している。



