2026年7月9日(現地時間)、OpenAIが「GPT-5.6」を一般公開した。筆者はChatGPT、Claude、Geminiの3社に自腹で課金している人間だ。Claudeにいたっては、Model Context Protocol(MCP)が使いたくて契約し、不要になって解約し、「Fable 5」が出たと聞いて出戻った。わたり歩きばかりだが、その出戻ったばかりのFable 5と新しいGPT-5.6を比べられるのは今しかない、と奮起していた。
Fable 5とGPT-5.6の登場背景
Fable 5は米国政府の指導を受けた提供停止を経て2026年7月1日(以下、同年)に再公開されたものの、サブスクリプションの範囲内で使えるのは期間限定だ。期間後は100万トークンあたり入力10ドル、出力50ドルという価格で、月額とは別のクレジット課金になる。そこへ来てのGPT-5.6だ。OpenAIはGPT-5.6の最上位モデル「Sol」について、Fable 5を上回る性能をより低いコストで実現すると打ち出してきた。
GPT-5.6がFable 5より使えるなら、Claudeを解約すればいい。そこで筆者は、サブスクでFable 5を使える期限(7月12日)までの土日に検証し、Claudeを解約するかどうかを決めることにした。
検証タスクと比較条件
ところが、検証を進めているさなかに、締め切りが延びた。7月12日までだったサブスク利用が可能な期限(この期限も1度延びている)は7月19日(日本時間7月20日午後)へと延びた。理由の説明はないが、タイミングはGPT-5.6の一般提供と重なっている。
まず公開ベンチマークを調べたのだが、これがあまり当てにならないと分かった。OpenAIはコーディング評価指標「Artificial Analysis Coding Agent Index」でSolの優位をうたう。一方、同時に公開した評価表のSWE-Bench Proでは、Fable 5が80%、Solが64.6%と、約15ポイントもFable 5が優位だった。
SNSを調べてみても、ある人は「Fable 5が優れている」と言い、ある人は「GPT-5.6 は結構できる。Fable 5でうまくいかないところも対応してくれる」と言う。結局お金を払って使うのは自分なので、自分がやってほしいタスクの成果で決めるのがいいと考えた。
タスク1:Blenderアドオン開発で明確な差
今回判断するために用意したのは、筆者がAIにやってほしいと考えたタスク3つだ。(1)3DCGソフト「Blender」のアドオン開発、(2)セキュリティ情報源のフィードを巡回してキーワード該当記事をHTML化する収集ツールの開発、(3)「セキュリティ投資のROIは原理的に証明可能か。立場を明確にし、自分の論法の最大の弱点も指摘せよ」というという挑戦的な質問だ。
条件は以下の通り。Fable 5(Proプランのサブスク枠内)、GPT-5.6 Sol(ChatGPT Plus、応答性能:高)。1つ目のタスクのみ「Gemini 3.1 Pro」(Google AI Proプラン)にも参加してもらった。プロンプトは事前に固めて、全モデルに同じものを問いかけている。
Blenderアドオンは、FableもGPT-5.6も1発で動くものを出してきて、回数では差がつかなかった。差が出たのは、シームの入れ方だ。Fableのシームはほどほどにきれいだった。人間のモデラーが入れると思う箇所に近い場所に入っていた。GPT-5.6は展開後の配置こそ悪くないのだが、シームは人間ならまず入れない箇所に入れられていた。
そしてGemini 3.1 Proは今一つ物足りない結果となった。1回のやり取りでアドオンをエラーなく記述できず、GPT-5.6 よりシームの入れ方が機械的だった。
シームの良し悪しに絶対的な正解はないが、正解に近いものはいくつか存在する。それは仕上がりや用途、可読性などによって正解が変わってくる。この手のものは、ベンチマークが測りにくい領域だと思う。少なくとも筆者のこの用途では、3モデルのうちで好みのもの、そうでないものがはっきり分かれた。
タスク2:仕様に従うAIと意図を汲むAI
収集ツールでは、別の種類の差が見えた。Fableは一発で動くものを出してきた。しかも、壊れたXMLやShift_JISのフィードといった意地悪なサンプルを自作してテスト済みだという説明付きで出してきた。
GPT-5.6は最初、エラーが出た。要件にないフィード自動検出や公式APIへの切り替えを追加し、汎用的な日時処理まで組んだ結果、Windows環境のタイムゾーンデータ欠落というエラーが出てしまった。GPT-5.6のどんなタイムゾーンでも扱うための設計が動かず、Fableは動いた。Fableのコードの冒頭には、こんな1行がある。
JST = datetime.timezone(datetime.timedelta(hours=9), "JST")
OSのデータベースに頼らず、「UTC+9時間」を自前で決め打ちしている。日本に夏時間はないから、この割り切りで困ることは何もない。依存を排する発想が一貫していた。
もう一つ、両者の対応が分かれた场面がある。筆者が渡した巡回リストには、フィードではないただのWebページのURLを間違って混ぜてしまっていた。Fableはこれを仕様通り「取得失敗」として粛々に報告してきた。GPT-5.6は自動検出を実装して、動くようにした。
仕様に従ったのはFable 5、筆者の意図を汲んだのはGPT-5.6だ。定期的に実行するものであれば後者の方がありがたい気もする。だが仕様外の動作を勝手にされては困る業務なら、前者の方がいいだろう。筆者のミスを、指示通り失敗させるAIと、汲んで直してしまうAI、どちらがいいのか考え込んでしまった。
ちなみに、脆弱性やランサムウェアの情報を扱うツール開発という、サイバーセキュリティについての依頼だったにもかかわらず、心配していた安全機構の誤検知や拒否は両モデルとも一度もなかった。
タスク3:優劣をつけられなかった難問
挑戦的かつ答えのない課題として設定したタスク3については、正直なところよく理解できなかった。これは筆者の理解力の問題であって、Fable 5もGPT-5.6 もしっかりとした回答をしてきた。
両者とも「原理的に証明不可能」と言い切り、理由も処方箋もほぼ一致した。違ったのはジャンルだ。Fableは「予算を削るなら、このリスクを取締役会として保有するという議事録に残せ」と日本企業の責任構造を突いてくる内容だった。GPT-5.6はNISTを引用し、予算3案の比較表まで添えた総論的な資料だった。弱点の自己指摘では、自分の判断が自分に跳ね返る構造まで踏み込んだFableに及ばなかった。正直なところ、優劣はつけられなかった。
AIの出力の質が使う側の評価能力を超えたとき、モデルの優劣は測定不可能になる。あなたの会社で、AIの戦略程度を採点できる人は誰だろうか。
結局、決め手は性能ではなかった
3タスクをやって分かったのは、優劣ではなく、差の種類がタスクごとに違うということだ。暗黙知で差が出たアドオン開発。「引き算のFable、足し算のGPT」という性格が出た情報収集ツール。地力が筆者の採点能力を超えたROI検討。単純なコーディングなら差が出ず検証にならないだろうと思って用意した「絶対的な正解がない」タイプのタスクは、筆者が良し悪しを判断するのを余計に難しくしたように思う。
で、解約するのか。結論はこうだ。Fable 5がサブスク枠内で使い続けられるなら、Claudeは解約しない。クレジット課金でしか使えなくなるなら、解約する。GPT-5.6がとても心強いことが今回よく分かった。乗り換えても大きく困ることはないだろう。つまり性能では解約の理由が見つからず、決め手は提供条件だ。そしてそれを決めるのは、筆者ではなくAnthropicのキャパシティ判断だ。解約判断の週末を設定したはずだが、終わってみれば、決定権は筆者の手元になかった。
これは企業のモデル選びにもつながるのではないだろうか。6月下旬から7月中旬の期間だけでも、最上位モデルが米国政府指導で止まり、期間限定で復活し、期限が2度延びた。性能は拮抗し、ベンチマークは発表元の中で割れ、提供条件は週単位で動く。「一番悪いモデル」を当てるゲームは、もう選択の中心ではない。自社のタスクで性格を測ること。来月も同じ条件で使えるとは限らない前提で動くこと。個人の月額3000円ですらこうなのだから、企業規模の契約なら、なおさらだ。
Fable 5の期限は日本時間7月20日午後。今度こそ締め切りは来るのか、それとも3度目の延長か。サブスク内でFable 5を使い続けられたらと思うばかりだ。



