ルーマニア出身の哲学者エミール・シオラン(1911-1995)は、「絶望の哲学者」として知られる。そのネガティブで逆説的な名言が、現代のSNS時代に生きる人々の心に深く刺さっている。フィギュアスケーターの羽生結弦もシオランの著作に惹かれた一人として知られ、その影響はスポーツ界にも及んでいる。
バズらないことの価値
シオランは、SNSで「バズる」ことに必死になる現代社会に対し、まったく逆の視点を提供する。彼は、映えのない発信を繰り返す不器用な人々や、バズることなど考えもしない人々にこそ、善を見出し慈しみの目を向ける。シオランにとって、「いいやつ」とはぐうたらで行動力に欠けるため、バズることがない存在だ。そして、バズらないあなたこそが、この世界における良心であると説く。
朝活を否定する逆張りの哲学
シオランの有名な言葉の一つに「朝活する元気があるなら悪事の方が向いている」がある。これは、朝早く起きてエネルギーに満ちている時間は、むしろ「とんでもなく卑劣な行為を犯すのにうってつけ」だという逆説的な主張だ。現代社会では朝活や早起きが推奨されるが、シオランはそれを真っ向から否定する。
彼は、もし朝に活力があるなら、そのエネルギーを巧みに使って悪事を働くほうが合理的だとさえ示唆する。たとえば、朝イチでゲームに没頭する方がはかどるかもしれないし、頭が回っているうちに誰かを騙すこともできるだろう、と。
遅起きのすすめとしての福音
一見すると性格が悪すぎるこの言葉は、しかし「遅起きのすすめ」として機能する。昼どころか夕方に起きて頭を抱えたり、朝早く起きられても元気がなくてベッドから出られない人にとって、シオランの言葉は自己嫌悪から解放される福音となる。「今日は誰かを害する気力がない」と考えることで、二度寝や三度寝を肯定できるのだ。
シオランの代わりに紹介者はこう言う。「今日も早く起きなかったあなた方のおかげで、傷つけられる人が減った。この地獄に生きている限り、人を傷つけないことは難しい。だからあなた方は、そのままでいいのだ」と。
現代人がシオランに惹かれる理由
SNSで常にポジティブな発信が求められ、バズることが価値とされる時代に、シオランのネガティブな哲学はむしろ新鮮であり、救いとなる。彼の言葉は、頑張れない自分、バズれない自分を肯定し、生きることに疲れた現代人の心に寄り添う。
羽生結弦がシオランを読んでいることは、競技生活のプレッシャーの中で、逆説的な哲学が心の支えになったからかもしれない。シオランの思想は、ネガティブなのに前向きになれるという逆説的な魅力を持っている。



