Preferred Networks(PFN)とPreferred Robotics(PFR)は9月9日、屋内移動ロボット向け環境高度理解基盤モデル「PLaMo-SemGround(プラモ・セムグラウンド)」の共同開発を開始すると発表した。この取り組みは、経済産業省とNEDOが実施する生成AI開発強化プロジェクト「GENIAC」の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/ロボット基盤モデルの研究開発(GENIAC)(補助)」に採択されたもので、2028年度中にPFRの各種ロボットへ先行実装し、その後、国内のロボットメーカーやシステムインテグレーターなどへの外販を目指す。
ロボット導入時の設定作業をAIへ委譲
物流倉庫や製造現場、商業施設では人手不足を背景に搬送、巡回、清掃、点検などの自動化ニーズが拡大している。一方、屋内移動ロボットを導入する際には、施設の地図に加え、一方通行や進入禁止領域、段差、仮置きされた物など現場固有の走行条件の設定が必要となる。さらに、レイアウトや運用ルールが変わった場合も専門技術者による設定更新が必要なケースがあり、導入・運用の時間とコスト、変更の負担が普及の課題となっていた。
PLaMo-SemGroundは、自然言語による指示と、カメラが取得したRGB画像、周囲の物体や床、壁までの距離を示す深度情報を組み合わせ、領域、物体、走行制約を2次元および3次元空間上で特定することを目指す。「この通路は一方通行」「この区域へは進入しない」「床に置かれた荷物を避ける」といった指示や現場の状態を理解し、意味情報付き地図であるセマンティックマップや経路計画器へ反映できるようにする。PFNとPFRは、屋内移動ロボットの導入に必要な初期設定や運用タスクの90%以上を、AIと現場担当者へ委譲することを目標としている。
20億パラメータ級以下でエッジ動作に対応
PLaMo-SemGroundは、クラウドを利用せず、ロボット本体のコンピュータや現場に設置したローカルPCなどで動作させることを想定する。工場や物流倉庫では通信遅延やネットワーク障害がロボットの動作に影響することを避ける必要があり、施設内の画像やレイアウト、運用情報を外部のクラウドへ送信できないケースもあるためだ。その実現のために、PFNが開発する国産生成AI基盤モデル「PLaMo」や視覚言語モデル「PLaMo-VL」の知見を活用し、モデル規模を20億パラメータ級以下に抑えながら、ロボットの環境認識に必要な性能を実現する。
モデル名は、PFNがフルスクラッチで開発する国産生成AI基盤モデル「PLaMo」と、自然言語に含まれる意味情報を画像や3次元空間上の物体、領域、位置へ対応付ける技術「grounding(グラウンディング)」に由来する。小型・軽量なモデルとして実装することで、演算能力やメモリ容量、消費電力に制約がある屋内移動ロボットにも搭載しやすくし、現場での即応性や機密性を確保する考えだ。
50現場以上から80万フレームを収集
共同開発では、PFRが許可を得た工場や商業施設など50現場以上から、RGB画像、深度情報、走行ログ、現場の運用ルールなどを、PFRが開発する搬送・清掃ロボットや専用のデータ取得台車を利用する形で、学習・評価に使用可能な実用データを80万フレーム以上確保する計画である。ロボットの環境認識では、床、壁、柱といった固定物だけでなく、人や荷物、台車などの移動物、仮置きされた物、床面の段差など、現場によって異なる対象を認識する必要があり、照明や床材、通路幅、物体の配置も施設ごとに異なるため、多様な実環境のデータを収集する。
PFNは、PFRが収集する実用データに公開データと合成データを組み合わせ、画像に関する質問へ回答するVQAや、指示された対象領域を特定するビジュアルグラウンディングなどに利用できる2000万サンプル以上の学習・評価用データ基盤の構築を進める。また、PFRが400現場以上で収集してきた既存データも活用し、公開ベンチマーク「EmbodiedScan」を対象業務向けに変換・整備するほか、屋内移動ロボットの実運用に即した独自ベンチマークも構築する。
5業種・10現場以上で実証
開発したPLaMo-SemGroundは、PFRの搬送ロボットや清掃ロボットへ実装し、5業種、10現場以上で実証試験を行う予定。実証では、走行可能領域や進入禁止領域、障害物などを認識する空間認識性能に加え、初期設定や運用作業の90%以上をAIと現場担当者へ委譲できるかを評価する。
PFRは、家庭用自律搬送ロボット「カチャカ」や法人向けの「カチャカプロ」などを展開しており、こうした製品の開発や400現場以上への展開で蓄積した運用ノウハウをモデル開発と実証へ反映する。一方、PFNは生成AI基盤モデルや視覚言語モデルに加え、AIプロセッサ「MN-Core」シリーズやAI向けクラウドサービスなどを開発しており、AIモデルからソフトウェア、ハードウェアまでを垂直統合できる体制を持つ。両社は、PFNのAIモデル開発力とPFRのロボット開発・現場運用ノウハウを組み合わせ、研究開発から実環境での検証、製品実装までを一体で進める。
2028年度中にPFR製品へ先行実装
PLaMo-SemGroundは2028年度中に、PFRのロボット製品へ先行実装する予定である。その後はPFNから、モデルライセンス、SDK、評価基盤などの形で、国内のロボットメーカー、システムインテグレーター、施設管理事業者へ段階的に提供する計画となる。PFRの製品だけに閉じた技術とせず、意味情報付き地図や経路計画器へ接続できる基盤モデルとして提供することで、他社製ロボットや異なる業務への展開を図る。
対象業務についても搬送、清掃、巡回、点検などへ広げ、ロボットの形態は車輪型を中心としながら、将来的には脚型ロボットやヒューマノイドロボットへの適用も視野に入れる。フィジカルAIの社会実装では、AIモデルが現実空間の状態と人間の指示を結び付け、安全な行動へ変換する能力が求められる。今回のPLaMo-SemGroundの開発開始は、自然言語と2次元・3次元の空間情報を対応付けることで、屋内移動ロボットが現場ごとのルールや環境変化を理解する基盤を構築する取り組みを推進するものとなる。



