3月某日、PCゲーム配信プラットフォーム「Steam」で配信が始まった、自分だけのデータセンターを作れるインディーシミュレーションゲーム「Data Center」。早期アクセス版の発表以来、そのニッチさからITインフラ関係者の関心を集めている。
ゲームの概要
Data Centerは、AI需要などで今話題のデータセンター運営をテーマにした作品。サーバを配置するラックやサーバ、集線機器のネットワークスイッチ、ケーブルを購入し、何もない部屋に自力で設置・配線したり、機器にIPアドレスを割り当てたりしていく。顧客の要求に応じたサーバを構成・提供すれば資金や経験値を獲得でき、新たなハードウェアを購入したり、部屋を拡張したりできるようになる。これを繰り返し、理想のレイアウトや配線、負荷分散を追求していくのが基本的な流れ。ただしハードウェアには寿命があり、メンテナンス性や冗長性の確保も不可欠だ。
現場のプロがプレイ
今回のプレイでは、Newzoneさんにゲームの概要をレクチャーしてもらってから、新しいセーブデータを作ってプレイしてもらいつつ、本職から見た突っ込みどころを「マジレス」してもらったり、業務のこぼれ話を教えてもらったりした。
発注、そして搬入
最初はキッチンルーム(機器の初期設定などを行うスペース)にあるPCからショップにアクセスしてラックを購入。ついでにスイッチとサーバとケーブルも。ローディングベイ(積み下ろしスペース)から搬出していく。
筆者: 実は私、恥ずかしながらデータセンターに入ったことがなくて。発注がこんなに円滑ではないのは分かるんですが、中は実際こんな感じなんですか?
Newzone: いや、これはセキュリティ的に問題ありますね。一般的にデータセンターってセキュリティ区分が5段階くらいあって、サーバ室が「5」だとすると、キッチンルームは「4」くらい。ローディングベイは「3」とか「2」で、通路はもう少し低い。ただ、ゲームではキッチンルーム、通路、サーバルームの間に何も仕切りがありません。オンプレミス(自社でサーバなどを運用する)企業のサーバ室ならまだしも、商用のデータセンターではありえない。いわゆるローター(回転式)ゲートとか、連れ去り防止のゲートがついています。
ラックの設置とマウント
Newzone: まずラックに「トップオブラックスイッチ」と呼ばれるスイッチをマウントします。ゲームではワンクリックで設置できますが、実際はこんなに簡単じゃないです。ラックについている、蓋がいっぱい開いてる穴がありますよね。あれを「マウントアングル」と言うんですが、まずそこにレールの受けをつけて、さらにスイッチやサーバ側にもレールをつけて、それからレールでスライドさせてマウントするんです。
筆者: どれくらい時間がかかるものなんですか?
Newzone: 電動ドライバーがあっても、1台数分はかかります。レールつけるのすげーめんどくさいです。ゲームでは端折られてます。
筆者: 数があったら、それを大量にやるわけですもんね。こんなに簡単にできるなんて。
Newzone: もうよだれ出てきますよ(笑)。次はサーバをマウントして、ネットワークケーブルを持ってスイッチとサーバをつなぐ、と。ちなみに日本のデータセンターはどこも配線がすごい綺麗ですよね。海外は荒いです。国柄が出てる(笑)。
ケーブルとラックにマジレス
Newzone: ネットワークケーブルもちゃっちゃかつないでいきましょう。本当は「成端」(せいたん)と言って、先端にコネクタをつける作業もあるんですけどね。ケーブルをつなぐ様子。(現場の状況に合わせて)ケーブルを切りそろえて、線番を振って、順番通りに並べて……順番にも流儀があるんです。例えば「586B」という規格だと、橙、オレンジ、オレンジ……みたいな並び順があって、その通りに線番を並べ替えて、圧着ペンチでコネクタを圧着する。これがまた結構めんどくさい。ゲームでは省かれてます。
筆者: だいぶ楽しくなってるんですね。
Newzone: ただ、今のデータセンターでは別の理由で、成端することはほぼありません。ラックを一列に立てて、LANケーブルを最低2~3本、光ファイバーも含めてもっと配線するんですが、「パッチパネル」というラックを置いて、そこに全部集約するんです。業者は「情報コンセント」と呼ぶんですが。で、トラフィックを集約する「集約ルータ」「集約スイッチ」、「IDF」(中間配線盤)もそのパッチパネルに配線して、いわゆる「パッチケーブル」でつなぎます。パッチケーブルが大量にあって、それをパチパチつなぎ替えるだけ。
筆者: 長さを調整しなくていいので、パッチケーブルは成端しない、と。
Newzone: 一部の最新のデータセンターでは、パッチケーブルのつなぎ替えさえ電子化されています。電子式のパッチパネルというのがあって、コンピュータでどこどこのパッチをつなぐか操作できるようになっています。なので、ケーブルの成端は研修ではやらされますが、実際の作業ではほぼやらない。お客さんの環境の都合で特別な構造をするとか、通常じゃない作業の時だけだと思います。
筆者: ただ、ゲームではそれが再現されているわけではないと。
Newzone: 次はケーブルを1個ずつスイッチにつないでいきます。本当はサーバに1本しかケーブルをつながないというのはありえないんですけどね(笑)。
筆者: 冗長化(トラブルに備えた余分)ですか?
Newzone: サービス提供用なら冗長構成にしますし、それとは別に「IPMI」という管理用のポート(差し口)も必ずついてます。IPMIを使うとサーバの管理、BIOSの設定とかもできるので、必ず確保します。だから3本つなぐパターンが多いですかね。IPMI1本+サービス用の冗長構成2本、という感じです。
あとラック背面に板がないのも、ちょっと違和感がありますね。今どきは「アイソレーション」と言って、コールドアイルとホットアイル(冷気の通路と排気の通路)が分かれているんですよ。後ろに板がなかったら短絡で、空調効率がガタ落ちします。
筆者: 確かにこのゲームには冷房関係がない……。
Newzone: もう一つ言うと、サーバをマウントしていないところに「ブランクパネル」というパネルをつけないといけない。冷たい風が温かい方に行きなり行ってしまう「ショートサーキット」という現象を起こして、空調効率が低下しちゃうんですよ。だからだいたいどのデータセンターにも「ブランクパネル警察」がいて、パネルをつけてないと怒られます。「省エネじゃない」って。お客さんにも徹底してもらってます。省エネのためにブランクパネルつけてくださいって。
IPの割り振りが面倒くさすぎる
筆者: 言っている間にケーブルがつながっている! で、クライアントの回線にもつないで……あとはマウントしたサーバにIPを割り振る作業ですか?
Newzone: ゲームでは1機1機やらなきゃいけないんですが、これがだるいんですよね。実際は「ネットワークブート」と言って、起動すると勝手にサーバにつながって、IPが割り当てられて、OSのインストールまでやってくれるんですよ。じゃないと何百台もやられませんから。このゲーム、意外と不自由ですよ。
筆者: 一括処理してほしいです。アップデートで一括設定機能を追加してくれないかな……。
Newzone: 実際はもうちょっとハイテクですよ、と言いたい。
筆者: おお、作業が終わったらサーバが動き始めた! ついでに数字が出てきましたが、これはEOL(End of Life、機器の寿命)かな……? ゲームのものはだいぶ短い気がしますけど、実際のものってどれくらい持つんですか?
Newzone: ものやメーカーによります。ラックの上に入れるスイッチでいえば、昔よく使われていた日立電線の「Apresia」(アプレシア)というスイッチがあって、あれは壊れなかったですね! 壊れたのを見たことがない。保証もそんなに入ってませんでした。あと、ゲームではトップオブラックスイッチが直接クライアントの回線につながっていて、ロードバランサ(負荷分散装置)もファイアウォールも何も入っていませんね。ここも簡略化されています。
筆者: 依頼が完了したので、また次のクライアントのために設備を売って……を繰り返すわけですね。そういえばキッチンルームにゴミ箱がドンと置いてあるのは結構強烈ですよ。実際の廃棄物はどう扱うんですか?
キッチンルームのゴミ箱
Newzone: ゲームではゴミ箱にドンって入れると捨てられるみたいですけど、そんなわけないでしょ(笑)。だいたいリース品なので、リース会社に返します。あとラベル付けも必要ですね。サーバにIPアドレスとかを書かないと、作業のときミスするんですよ。リース品ならリース会社のシールも貼られたりとか。
筆者: キッチンルームにはソファがありますけど、こんなのもありませんよね……。
Newzone: 30年前ならなくはなかったですけどね。基本、データセンター、特にサーバ室にはあんまり可燃性のものを置かないです。可燃物のソファとか、消火に努られますし。



