全日本空輸(ANA)は8月21日、地方空港の案内業務を遠隔ロボットで支援する「空港間遠隔サポート」の提供を開始した。自社グループのスタートアップが開発したアバターロボット「newme」を活用するもので、関西空港を拠点に、広島など各地の空港に順次設置する。
遠隔ロボットで案内業務を支援
このサービスは、関西空港に待機する専門スタッフが、地方空港に設置されたロボットを通じて遠隔で案内業務を支援するもの。導入初日となる8月21日に広島空港で運用を開始し、9月3日に対馬(長崎県)、10月1日に長崎、10月15日に長野、10月28日に小松(石川県)の各空港へ順次設置する。設置数はそれぞれ1台または2台で、いずれも関西空港からの遠隔サービスとなる。
ANAによると、空港間の遠隔サポートは国内の航空会社では初の取り組みだという。第1弾として、地方空港での問い合わせを関西空港からロボットを通じて支援する。対面と遠隔を融合させ、航空業界が直面する労働力不足をDXで乗り越える「ハイブリッド接客」の実現を目指す。
実証実験で98.4%の解決率
導入に先立ち、ANAは東京・羽田空港で半年以上にわたる実証実験を実施した。羽田空港で約2万5000件の接客データを集めて検証した結果、その約6割が空港内の施設が「どこにあるか」といった問い合わせだった。搭乗手続きのやり方や航空券の番号確認といった旅客業務上の問い合わせも多かったという。
この実証実験では、寄せられた問い合わせの実に98.4%が対面と同等に遠隔で解決できることが確認された。この高い解決率が、本格導入への大きな後押しとなったとしている。
接客からの問い合わせに対し、遠隔でも可能な範囲で案内やサポートをするのが今回の目的だ。一方、遠隔で対応しきれない複雑な手続きや対面が望ましいケースでは、現地スタッフに引き継ぐなど、遠隔と対面のハイブリッドによって接客に対応することを想定する。
地方空港の課題解決とDX推進
インバウンドの増加が地方にも広がったこともあり、地方空港では英語などの語学が堪能な人材が不足しがちな課題がある。インバウンドによる国内線と国際線の乗り継ぎ利用は、地方空港でも少なくない。
ANA関西空港 旅客サービス部業務課の三宅史恵課長は、国内有数の国際空港である関西空港には、英語そして国際線・国内線・格安航空会社(LCC)の専門スキルなどを備えた人材がそろっていることを踏まえ、「デジタル技術を駆使して遠隔サポートすることで、多様な接客ニーズに対応できます。地方空港での対応力の向上につながる可能性があります」と説明する。
さらに、空港の現場で対面での対応が集中している現状を踏まえ、遠隔サポートによって、より専門性の高い対応を行い、地方空港の課題をカバーすることを目指すという。
実際に導入が始まった広島空港でハンドリングを担う、中国ターミナルサービスの大塚康弘執行役員も「現場の対応力の厚みが増す」と話す。「カウンター周辺の案内業務をnewmeが担うことで、現地スタッフは対面だからこそできる細やかなおもてなしやサポートに専念できます。この新しい人材活用の形こそ、これからの空港現場が進むべき道」と現場目線での手応えを語る。
データ蓄積とCX向上への挑戦
newmeの導入によって地方空港における問い合わせのデータを蓄積し、利用客のニーズを定量的に可視化することで、現場のサービス向上につなげるのも目的だ。羽田に続いて関西空港での運用を進めるとともに、規模や客層が異なる広島などの空港でも展開し、同様の仕組みが効果的に機能するかを検証していく。
さらに少子高齢化や人手不足といった、将来的な労働力の問題に備える意味合いも持つ。限られたプロ人材を効率的に配置し、イレギュラー時の対応や接客体験(CX)向上につながる運用も検証する。空港の運航業務を、アバターを使って遠隔での接客で補完することで、人材が限られる中、複数の空港において接客対応を充実させることを目的とする。
ANA広報部によると、グループ全体としての狙いとして「CX向上が第一目標」であり、そのための「効率化や他社より高品質な接客提供といった差別化も重要」と語っていた。以前の羽田での検証をもとに、問い合わせが多かった施設案内や手続きサポートを中心に「必要なときに必要なサポートを提供する」ことで接客満足度を高め、遠隔サポートと現場でのオペレーションで最適なバランスを検証するという。
三宅課長は「空港を超えたバーチャルな支援体制の構築という挑戦です。社内での知識共有、社員の新たな働き方への期待にもつながりたい。組織の活性化につながる貴重な機会と捉えています」と話していた。
他の地方空港へのnewmeの設置、遠隔サービスの拠点を増設するなどの予定は、現時点では未定という。今回の導入で検証しつつ、今後の展開規模や体制などを判断していく方針だ。
ANAのこの試みは、単なる労働力不足の穴埋めにとどまらない。特定の場所に偏っていた「熟練のプロ人材」の価値を、デジタル技術によって最大限に引き出し、必要な場所へ届ける新しい人材活用モデルだ。これにより、地方のサービス品質を引き上げると同時に、組織の活性化や新たな働き方を創出できる可能性がある。



