岡山県津山地区で約220年続く上田手漉和紙工場が、後継者不足により存続の危機に立たされている。同工場は、金沢の伝統工芸品「縁付金箔」に使用される箔合紙を日本で唯一手漉きで製造する。7代目の上田康正さんは「私の代で最後かも」と語る。
金沢金箔に不可欠な和紙
金沢の伝統工芸品「縁付金箔」を名乗るための基準として、「岡山県津山地区で手漉きで作られる箔合紙を使用すること」が指定されている。つまり、金沢の伝統工芸品を存続させるには、上田さんが和紙を作り続けなければならないのだ。
箔合紙は厚さ0.03ミリと極めて薄く、手で触れるとふわっとした感触がある。紙の表面に空気が通ることで、上に乗せる金箔が浮き、繊細な金箔を傷つけない仕組みだ。
需要過多で半年待ち
上田さんは1人で1日300枚の和紙を漉く。しかし、「新規のお客さんから『こんな和紙は作れますか?』とたびたびご依頼をいただく。非常にありがたいが、納品まで数カ月待っていただいている状態」と話す。需要に供給が追いついておらず、海外からの需要も伸びている。売り上げのかなりの割合が海外へ輸出され、ドイツやカナダの芸術家がエッチングやアート作品、古本の修復に使用している。
国内需要は減少傾向にあるが、海外需要の拡大により年商は30年前の3分の1にまで落ち込んでいる。それでも、上田さんは昔ながらの製法と道具で和紙を作り続ける。
後継者不在の現実
紙を漉く以外の仕事は、実母と妻の裕子さんが手伝う。2020年には実父で6代目の上田繁男さんが岡山県指定重要無形文化財に認定されたが、2024年に亡くなり、現在は3人体制で運営している。しかし、後継者はおらず、上田さんは「私の代で最後かも」と危機感を募らせる。
和紙づくりに欠かせない簀桁(すけた)と呼ばれる道具を両腕いっぱいに広げ、漉き槽から「ちゃっぽん、ちゃっぽん」と軽やかな水音を響かせる。すべてが手作業の工程は、機械では再現できない品質を生み出している。



