キヤノンが半導体露光装置市場でオランダのASMLを追撃するべく、次世代ナノインプリント技術の投入を本格化させている。従来のEUV(極端紫外線)露光装置に比べ、低コストで微細な回路パターンを形成できる可能性を秘めており、半導体製造の勢力図を塗り替える可能性がある。
ナノインプリントとは何か
ナノインプリントは、スタンプのように型を基板に押し付けて回路パターンを転写する技術だ。キヤノンは2014年に米モレキュラー・インプリンツを買収し、この技術を獲得した。従来の露光装置のようにレンズを通して光を照射する方式と異なり、物理的に型を押し付けるため、原理的に解像度の限界が高く、微細化に有利とされる。キヤノンは「FPA-1200NZ2C」というナノインプリント装置を開発し、すでに一部の顧客にサンプル出荷を開始している。
EUVに対抗するコスト優位性
EUV露光装置は1台数百億円と高価で、運用にも大きな電力とコストがかかる。一方、ナノインプリント装置は装置価格がEUVの数分の一とされ、ランニングコストも低い。キヤノンは「5nmノード相当の微細加工が可能」と主張しており、EUVが不得意とする小ロット多品種の生産に適している。半導体業界では、EUVは先端ロジックやDRAMに使われるが、ナノインプリントはフラッシュメモリやセンサーなどへの応用が期待される。
課題は欠陥と生産性
ただし、ナノインプリントには大きな課題もある。型を直接基板に接触させるため、パーティクル(微細なゴミ)による欠陥が発生しやすく、歩留まりが低下する可能性がある。また、1枚のウエハーを処理する時間(タクトタイム)がEUVに比べて長く、量産性で劣る。キヤノンはこれらの課題を解決するため、欠陥を低減するプロセス技術や、高速で型を交換する機構を開発中だ。
ASMLの牙城は揺るがず
ASMLはEUV露光装置で世界独占に近い状態にあり、2023年の売上高は約2兆円に達した。同社はさらにHigh-NA EUVと呼ばれる次世代装置の開発を進めており、キヤノンの追撃は容易ではない。しかし、半導体メーカーからはEUVの高コストに対する不満も根強く、キヤノンのナノインプリントが一定の需要を獲得する可能性はある。キヤノンは「2025年までに本格的な量産対応を目指す」としており、ASMLとの競争が本格化するのはそれ以降になりそうだ。
日本の半導体装置産業の復活なるか
かつて日本は半導体装置で世界をリードしていたが、現在はASMLや応用材料(AMAT)など海外勢に押されている。キヤノンのナノインプリント技術が成功すれば、日本の半導体装置産業復活の起爆剤となる可能性がある。経済産業省も半導体戦略の一環として、先端技術への支援を強化しており、ナノインプリントはその候補の一つだ。キヤノンは「日本の技術力で世界に挑む」と意気込んでおり、今後の動向が注目される。



