世界規模で人気が広がる球技「ピックルボール」の競技人口が日本でも急拡大している。8月末からアジアで初のワールドカップがベトナムで開催され、活気づく中、用具提供や大会スポンサーに参入する国内企業も増えている。2032年にオーストラリアのブリスベンで開催される夏季五輪で正式競技採用を目指す動きも活発化しており、新たな市場形成への期待も高まりそうだ。
ビジネスツールとして活用するSansan
ピックルボールに力を入れている企業のひとつが、名刺や請求書などの管理サービスを提供する「Sansan」だ。今年4月に「ピックルボール事業推進室」を立ち上げ、7月には東京・池袋にピックルボール専用コートをオープンした。「当社のミッションである〝出会いからイノベーションを生み出す〟を実現するスポーツとしてピックルボールを推進することとした」と話すのは同事業推進室の小池亮介室長。ピックルボールを通して顧客と交流を深め、営業活用や会社の認知度を高めるツールの役割を狙うと説明する。
事業化のきっかけは23年末。米国ではピックルボールがビジネスシーンの交流ツールとして使われていた。創業者の寺田親弘社長が盛り上がりを肌で感じ、「日本でも同様なことを起こせるのではないか」と思い立った。同社が主体となり、10月には企業オーナー制の団体リーグの開始を予定する。将来的なプロ化を見据えている。小池氏は「ピックルボールの市場成長に伴い、プレーヤーや参入企業も増やしていきたい」と意気込む。
コロナ禍終息を機に急拡大
1965年に米国の家庭で生まれたピックルボールは、卓球のラケットに似た板状の「パドル」を使い、プラスチック製の穴開きボールを打ち合う球技。テニスと卓球、バドミントンの要素を併せ持つ。コートの広さはバドミントンと同じで、ネットの高さはテニスに近い。ボールに穴が開いていて、強く打っても空気抵抗で速度が遅くなる。初心者でもラリーを続けやすく、老若男女が楽しめる。
新型コロナウイルス禍の2020年以降、密を避けられ、屋外で手軽に楽しめる新しいスポーツとして米国で爆発的に流行した。マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツさんや俳優のレオナルド・ディカプリオさんら有名人も愛好。米国のスポーツ・フィットネス産業協会(SFIA)の分析では、米国の競技人口は5000万人に達している。21年にはプロリーグのMLP(メジャーリーグ・ピックルボール)が発足し、年間賞金総額は数千万ドル規模になっている。
日本の推計競技人口は7倍に急増
ブームは日本を含むアジアにも波及している。コート運営などを手掛けるピックルボールワンの調査によると、26年の日本での推計競技人口は約33万人と、前年(約4万5000人)比で約7倍に急成長した。「ブームの波は2度起きた」とピックルボール日本連盟の西上茂副理事は話す。「1度目はコロナ禍以降。米国から日本に戻ってきた人たちから『日本ではどこで競技ができるのか』との問い合わせが急増した。2度目は、その後に日本から米国に行き、本場のピックルボールを見てきた人から同様の問い合わせが増えた」という。同連盟はピックルボールを「三世代が楽しめるスポーツ」とし、今後も普及活動の推進を図る。
競技人口の増加を追い風に、夏季五輪での種目採用を目指す活動も進んでいる。近年は複数の国際団体が統括され、国際的なルールの統一や選手力向上に向けた進展が見られる。日本でも今春、主要2団体の日本ピックルボール協会とピックルボール日本連盟が統合され、環境や体制が整備されてきている。
国内スポーツ用品大手が本格参入
スポーツ用品大手のミズノは8月から、ピックルボール市場への本格参入を決めた。参入理由について、ラケットマーケティング課ピックルボールMDの近藤由佳氏は「ミズノは野球やゴルフなど球を打つ〝打撃系〟競技の用品に強みを持つ。世界規模の人気で市場拡大も見込めることから、次の打撃系の成長の柱としてピックルボールに力を入れるタイミングになった」と話す。
23年から用具開発に取り組み、打撃系競技で培った同社のノウハウをピックルボールのパドルにも盛り込んだ。今年発売したパドル「ACROSTRIKE LX(アクロストライクエルエックス)」(3万9600円)には、同社のゴルフクラブのヘッドに使われている重りの位置を調整可能な独自技術を搭載。専用レンチでパドルの側面にある重りを動かすことで、プレーヤーの好みに応じてパドルを振った際の体感的な重さを調整できるように作られている。
重りを先端側に動かすと力強いパワー重視のスイングができ、重りを手元側に寄せると操作性が向上し、ネット際の素早いパドル動作に対応しやすくなる。4月に米国で販売したところ「取引先の一部で完売しており、後発ながら差別化した商品で注目を得ている」(近藤氏)と手応えを強調する。
普及への課題は「競技を楽しむための圧倒的なコート不足」(ピックルボール日本連盟の西上氏)だ。ミズノは、全国で管理運営している運動施設でピックルボールの体験会やスクールなどを開催し、普及活動も積極化させている。「ピックルボールを一時のブームに終わらせず、市場としてしっかり成り立たせる責務がミズノにはある」と近藤氏。「競技者層と、誰でも楽しめるユーザー層をしっかり成長させていくため、用具面と施設面を網羅した取り組みで市場を作っていく」と力を込める。



