地震計メーカーIMV、7カ国語対応の公式サイトで海外販路拡大 ニッチ企業のIT活用術
地震計メーカーIMV、7カ国語サイトで海外展開

日本の企業は世界的に高い技術力を持つことで知られている。ニッチ分野で目立たないものの、高い技術や世界シェアを持つ企業は少なくない。ドイツの経営コンサルタント、ヘルマン・サイモン氏はこうした企業を「隠れたチャンピオン」と定義し、経済産業省も「グローバルニッチトップ企業」として支援している。

グローバルニッチ企業のIT戦略

グローバルニッチ企業は高い技術力を持つ一方で、知名度が実力に比べて低く、ITを駆使して海外でのブランディングや販売にいかしていることも多い。この連載では、こうした企業のIT戦略をインタビューで深掘りする。

第13回は、地震計や振動試験機などを製造・販売するIMV(大阪市)を取り上げる。同社は7カ国語の公式サイトに工夫をこらし、地震国・日本のノウハウを生かした製品を海外で販売している。

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ミャンマー地震で問い合わせ急増

同社の西原宏執行役員は「2025年のミャンマー大地震の際、公式サイトから震源に近いタイなどから地震計の問い合わせが急増し、効果を実感した」と強調する。聞き手は、海外進出する中小企業のブランディング支援などを手がけるZenkenの本圀達(もとむら・たつる)。

西原執行役員は、同社の強みの一つとして、設定震度に応じて機器設備を自動制御できる制御用地震計を挙げる。制御用地震計は、地震計で振動を感知し、振動の大きさに応じてガス漏れを防いだり、工場の機械を緊急停止したりして被害を防ぐための機器だ。

同社内には、地震によって生じる揺れを人工的に再現できる試験装置があり、地震計が地震の振動を正常に観測し続けられるか、不具合が発生しないかなどを評価できる。試験装置では低周波から高周波まで幅広い周波数で振動に関するテストができる。こうした試験場を持つ企業は多くなく、その分、精度の高い製品を製造できる。

海外展開の歴史と課題

同社は93年の台湾を皮切りに、中国、フィリピン、トルコ、タイ、インドネシア、韓国、メキシコ、ウガンダなど世界14カ国・地域で事業を展開している。海外に18ある代理店を通じて製品を販売しており、中国、台湾、インドネシア、タイなどでは展示会にも出展した。

西原執行役員は海外展開の課題について「アジアなど海外諸国では、地震に対する理解が進んでいないことが難点だ。問い合わせをしてくる担当者も地震へのリテラシーが低いことが少なくない」と指摘する。

例えば、日本でいう「緊急地震速報」は海外ではなく、「震度」という基準すら知られていない。海外では、政府関係者ですら地震の放出エネルギーを示す「マグニチュード」という用語を使うことが多いためだ。しかし、地震対策では、各地点で実際に感じた揺れの強さを表す「震度」の方が重要である。

こうしたリテラシーの低さは、不十分な地震対策につながる。このため、同社の海外営業は、地表の揺れの大きさとマグニチュードの違いを示す資料を提示して説明するところから始まる。震度を基準に揺れの大きさを測定することや制御用地震計の必要性を理解してもらわなければスタートラインに立てないからだ。

IT活用の具体策

同社の公式サイトは、中国語やタイ語、ベトナム語、ドイツ語、フランス語など世界7カ国の言語を選択して読むことができる。製造業に特化した有料の翻訳サービスを使って現地語に翻訳している。

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当初は無料の翻訳ツールを使っていたが、間違いや不自然な言葉が散見された。海外の潜在顧客から問い合わせを増やしたいのであれば、質の高い翻訳をすることが大事だと思う。同社の場合は、それをさらに現地スタッフに確認してもらって修正し、公式サイトに掲載している。

問い合わせボタンの位置も重要だ。せっかく潜在顧客が自社の製品に興味を持ってくれても、連絡方法がわからなければ意味がないからだ。同社の場合、画面をスクロールした時に問い合わせボタンが追従するようにして、潜在顧客がクリックしやすくした。

また、同社では海外から問い合わせがあると、その国の担当者にメールで通報するシステムを構築している。担当者が問い合わせに気づかず、対応が遅れることを防ぐためだ。メールでは現地語の内容と、その日本語訳を見ることができる。潜在顧客と同社の担当者双方の使い勝手を良くし、迅速なコミュニケーションに役立てている。

ミャンマー地震の効果

その効果を特に実感したのは、2025年3月にミャンマー中部でマグニチュード7.7の強い地震が発生した際だ。同社が進出しているタイでもバンコクで建設中の高層ビルが倒壊するなど大きな被害が出た。この出来事が大きく報道され、タイの企業が自社の工場などの地震対策への関心を高めるきっかけになった。

大地震が発生して2週間程度の間に、現地の自動車、化学、航空関係の企業や病院、空港、代理店などから同社へ約20件のメールがあった。地震対策の方法についてインターネットで検索した際、同社の公式サイトを見つけて連絡したのだ。地震が起きたことは大変残念なことだが、同社が現地語で読めるサイトを持っていなければ、タイでIMVの地震計が使われることはなかったかもしれない。

今後の改善計画

西原執行役員は「潜在顧客が公式サイトのどこを見ているのかを分析し、改善につなげようとしている」と語る。具体的には、スクロールや特定のページでの滞在時間、リンクのクリックなどエンゲージメントを調べている。分析をすることで「このページは見られているが、問い合わせにはつながっていない」といったことがわかる。

例えば、同社の公式サイトには「なるほど!地震計」という初心者向けに地震計のことを説明しているページがある。流入者は多いものの、問い合わせにはつながっていない。今後、こうした流入の多いページをどう販売につなげていくかが課題の一つだ。

また、現在の地震計の一覧ページは文章ばかりが多く、わかりづらい面がある。今後は特徴を箇条書きにした選択ガイドをつけ、誰でも自分の現場に適した製品を選べるように改善したいと考えている。

リアルでもWebでも相手がストレスを感じず、楽にしてもらえるように努力することが大事だ。つまり、CTRの分析も顧客サービスの一環だ。海外の潜在顧客にとっては、日本の企業の同社に問い合わせること自体にハードルがある。質の良い製品はもちろん大事だが、質の高い顧客対応も潜在顧客を実際の顧客に変える力を持っていると考えている。