4月に導入された自転車の「ながら運転」制度では、イヤホンをしながらの運転は違反となり、周囲の音が聞こえない状態でハンドルを握る行為は反則金5000円となる。これに補聴器の使用者が不安を抱かせている。ケーブルを使わずスマートフォンなどと無線でつながるワイヤレスイヤホンと区別がつきにくい補聴器が普及しているためだ。メーカー側は補聴器使用者の不安を和らげようと、状況を説明しやすくするような工夫を講じている。
誤認への不安と実際の運用
「聴覚障害者として突然声をかけられるのは怖いと思う」と明かすのは、中途失聴により日常的に補聴器を使用している神奈川県の女性(74)。「(イヤホンと)誤認されて警察から大きな声で指示を受けると、パニックに関わりかない。柔らかく受け答えができるよう、やわらかい対応をしてほしい」と訴える。
技術の進化に伴って補聴器も小型化と音質向上が進み、デザインもスタイリッシュなものに変わってきている。「ソノヴァ・ジャパン」(東京)が販売する補聴器は、AIの活用で状況に応じて自動的に集音の精度が高まるが、見た目はワイヤレスイヤホンと同様に耳穴に収まるようになっている。
利便性が高まる半面、ながら運転制度の開始によってSNSでは「イヤホンを外せと言われた」「ながら運転を誤認されないか心配」などと補聴器をイヤホンと誤認される不安を伝授した投稿が見られる。実際に警察に声をかけられたという体験談もつづられている。
イヤホンをしながらの運転が禁じられているといっても、装着自体が問題視されるわけではない。緊急車両など救急車両のサイレンといった周囲の音が聞こえない状態で運転していれば違反となる。警察がイヤホンと補聴器の見分けがつかずに状況を確認するケースはあり得るが、補聴器の装着でながら運転が誤認されることはない。
業界の取り組みと社会の理解
補聴器使用者が不安を抱えている現状を踏まえ、難聴者の社会参加促進などに取り組むNPO法人「大谷補聴器・難聴者協会」は配慮ある取り計らいや理解を求めている。補聴器をつけていても十分に周囲の状況が把握できるわけではなく、自転車にミラーを設置するなどの工夫をしている補聴器使用者も多い。
同協会の担当者は、聴覚障害者が車を運転する際に車体に貼る「聴覚障害者標示」のように周囲に分かりやすく伝える仕組みを設けるのも一案だとし、「補聴器使用者の努力だけではなく、社会の理解や環境整備も進んでほしい」とする。
補聴器メーカーも対策に乗り出している。ソノヴァ・ジャパンでは、補聴器の装着を証明する「補聴器ユーザーカード」を配布。安全な運転のために補聴器が必要である旨が記載されており、財布などに入れて携帯すれば、警察に声をかけられた際に活用できる。
同社によると、ながら運転制度の導入前から、イヤホンとの誤認を不安視する声はあったが、4月の制度開始を機に配布を決定。すでに全国の販売店に1万枚以上配布しており、「カードがあってよかった」との意見も寄せられているという。
補聴器を使っていても、聞こえ方の程度によって障害者手帳を持っていない人も多い。ユーザーカードは公的な証明書ではないが、「もものときにスムーズな意思疎通をする助けにしてもらえたら。運転時の安心材料にしてほしい」(同社担当者)としている。



