運転手のいない無人タクシーが東京を走る——そんな光景が近い将来、実現するかもしれない。米Alphabet傘下のWaymo(ウェイモ)は日本交通やGOと連携し、2025年4月から都内で車両走行の実証実験を進めている。
3.5億キロ超の走行データを持つWaymo
2009年に発足したWaymoは、AIやカメラ、レーダーなどを組み合わせた完全自動運転システム「Waymo Driver」を開発している。2020年から米アリゾナ州フェニックスで一般利用者向け無人配車サービスの提供を始め、これまでにサンフランシスコやロサンゼルス、マイアミなど15州以上の都市で乗車サービスを展開している。
Waymoはこれまでに3.5億キロを超える完全自動運転の走行経験を積んできた。「私たちが実際に商用展開しているエリアで同じ距離を走った際、Waymo Driverは人間のドライバーと比べて人身事故への関与が94%少ないという結果が出ている」と、オンボードソフトウェア担当副社長のシュリカンス・ティルマライ氏は指摘する。
東京特有の走行環境への適応
同社がサービス拡大に向けて、初の海外走行の場として選んだのが東京だ。ドライバー不足により公共交通の維持が行き届かない「交通空白」が課題となる中、交通業界ではサービスへの期待が高まっている。
一方で、自動運転サービスが身近ではない日本では、安全性に対する懸念の声も強い。サービスの東京展開に際しては、米国で作ったAIをそのまま持ってくるのではなく、都内の公道から得られた走行データをもとに、自動運転モデルを調整しているという。
モデルに反映される「東京特有の走行データ」とは、どのようなものなのか。安全性を高めるために、どのような仕組みを構築しているのか。同社は自動運転のAI開発から得られた知見について、メディア向け説明会を開いた。登壇したティルマライ氏の発言内容を抜粋して紹介する。
左側通行、道路の狭さ——東京特有の走行環境とは
「現在、私たちの車両は東京の街中を自動運転で走行し、地域特有の運転行動や乗車体験に関するデータを収集しています。東京は米国の都市とは異なります。左側通行であったり、標識であったり、歩行者の多さや道路の狭さなど、特有の環境があります。私たちは、そうした状況でWaymo Driverがどのように走るのかを実際にテストしています。テストで得られたデータから学び、改善しています。その改善が本当に機能しているのかをシミュレーションで検証してから、車両に反映しています。公道での走行、クローズドコース(試験専用コース)、そしてシミュレーションを組み合わせています。こうしたプロセスによって、東京の交通環境や利用者の期待に合わせてWaymo Driverを調整しています。AIの学習は一度やれば終わり、というものではありません。走れば走るほど、Waymo Driverはより良く、より自然になっていきます。東京での検証が完了し、サービス開始に必要な認証を得ることができれば、近い将来、サービスを開始したいと考えています」
「疲れない・怒らない・飲酒もしないドライバー」を開発
そもそも、なぜ自動運転が必要なのか。世界では毎年140万人が交通事故で亡くなっている。その多くはヒューマンエラーによるものだ。日本の道路は世界でも特に安全性が高いものの、年間30万人以上が交通事故で負傷している。同時に、深刻なドライバー不足によって、地域の移動手段が不足する「交通空白」も全国的な社会問題になっている。だからこそ私たちは「世界で最も信頼されるドライバー」を作ろうとしています。疲れることも、怒ることも、注意散漫になることも、飲酒することもないドライバーです。人間とは違って、時間とともに能力が衰えるのではなく、むしろ向上し続けるドライバーです。
ただ、自動運転は現代におけるAIの問題の中でも、おそらく最も難しいものの一つです。理由は3つあります。まず、現実世界は非常に複雑で、予測できません。倒木、冠水、突然道路に飛び出してくる子どもなど、実際にさまざまな状況に対処してきました。次に、安全性が極めて重要です。判断を誤れば、重大な結果につながりかねません。最後に、リアルタイム性があります。自動運転AIはクラウド上で何秒も考えているわけにはいきません。実際の車両上で、時には人命を左右する判断をミリ秒単位で行う必要があります。
「AIに全部任せる」ではなく補強する
完全自動運転というと、車両のセンサーから得た情報をニューラルネットワークに入力すれば、あとはコンピューターがいわば魔法のように運転してくれる、と考える人もいます。認識・判断・制御をすべてAIが担うエンド・ツー・エンド(E2E)のシステムには、確かに大きな強みがあります。しかし、純粋なE2Eシステムだけでは問題があります。一つはブラックボックスです。何か問題が起きたとき、AIがなぜその判断をしたのかを容易に検証したり、説明したりすることができません。もう一つは、本来活用できる大きな価値を取りこぼしてしまう点です。私たちは、E2Eのアプローチを使いながら、構造化された情報によって補強し、より安全性を担保したシステムにしています。E2Eモデルの強化版といえます。センサーについても同じ考え方です。カメラは非常に優れていますが、それだけでは十分ではありません。高性能センサー「LiDAR(ライダー)」は、周囲の構造を把握するために使い、カメラは物体や状況の意味を理解するために使います。レーダーは悪天候などの検知に役立ちます。それぞれが互いの弱点を補完することで、発生頻度は低いけれど確かに存在する「ロングテール」の事象に対応できます。自動車用HDマップ(高精度地図)についても同じです。私たちはHDマップを、もう一つのセンサーだと捉えています。視界が悪い状況や複雑な交差点道路では、この事前の知識が重要になります。もちろん、工事区間などで道路状況が変わっていれば、リアルタイムの状況を認識して走行できます。
AI自身に採点させない——3.5億キロの走行データで人身事故減



