アメリカ政府は7月1日のUSMCA(アメリカ・メキシコ・カナダ協定)見直し会合で、協定の延長を見送りました。これによりUSMCAが即座に失効するわけではないものの、今後毎年見直し協議が続くことになり、先行き不透明感が一層強まっています。
トランプ関税で大前提が崩壊
トヨタ自動車をはじめとする日系自動車メーカーにとって、高い利益が見込めるアメリカ市場は極めて重要です。1970年代以降の日米貿易摩擦を経て、日系メーカーは米国での現地生産を拡大してきました。同時に、1994年に発効したNAFTA(北米自由貿易協定)により、カナダやメキシコの重要性も増しました。
NAFTAは、アメリカ、カナダ、メキシコの3カ国を貿易上は1つの国とみなす取り決めです。2020年7月に後継のUSMCAに移行後も、関税などの貿易障壁はありませんでした。そのため、多くの日系メーカーは賃金の安いメキシコに工場を建設し、生産した車両を無税でアメリカに輸出することで収益を上げてきました。
しかし2025年3月、トランプ大統領はカナダとメキシコに対し、フェンタニルなどの合成麻薬流入や不法移民が多いとして、IEEPA(国際緊急経済権限法)を用いて多くの輸入品に25%の追加関税を課しました。これにより、「3カ国は1つの国」という前提が大きく揺らぐことになりました。
「メキシコ迂回」から「カナダ迂回」へ
従来、日系メーカーはメキシコに生産拠点を置き、完成車や部品をアメリカに無税で輸出する「メキシコ迂回」戦略を採ってきました。しかし、トランプ関税によりメキシコからの輸入に25%の追加関税が課される可能性が高まり、戦略の見直しを迫られています。
一方で、新たな動きとして「カナダ迂回」の可能性が浮上しています。カナダのオンタリオ州では、中国の自動車メーカーを誘致する動きがあると報じられています。もし中国車がカナダ経由でアメリカ市場に流入すれば、日系メーカーにとって新たな競争圧力となるでしょう。
USMCA見直しの行方と自動車ビジネスへの影響
USMCAの見直し協議は毎年行われるため、協定のルールが不安定な状態が続きます。特に、原産地規則や関税措置の変更は、サプライチェーン全体に大きな影響を及ぼします。自動車産業調査研究会社フォーインのアナリスト、安藤久史氏は「米国政府がUSMCAの期限延長に合意する可能性は低い」と指摘しています。
安藤氏は、著書『自動車ビジネスがわかれば日本経済がわかるって本当ですか?』の中で、日系メーカーが北米市場で競争力を維持するためには、生産拠点の再配置や関税リスクへの対応が急務だと述べています。
今後の見通しとして、日系メーカーはメキシコ依存から脱却し、アメリカ国内での生産拡大や、カナダを含む新たなサプライチェーンの構築を検討する必要があるでしょう。また、中国車の北米市場への進出が加速すれば、競争環境は一層厳しくなると予想されます。



