トヨタ自動車が、水素を燃料とするエンジン車の量産を断念したことが、複数の関係者の証言で明らかになった。トヨタはこれまで、水素エンジン車を次世代の環境対応車の柱と位置づけ、2020年代後半の市場投入を目指していたが、電気自動車(EV)への開発リソース集中を優先する判断を下した。
水素エンジン車の開発経緯
トヨタは、カーボンニュートラル実現に向けたマルチパスウェイ戦略の一環として、水素エンジン車の開発を進めてきた。2021年には、カローラスポーツをベースにした水素エンジン車でスーパー耐久シリーズに参戦。2023年には、水素エンジンを搭載した「GRヤリス」のプロトタイプを公開し、市販化への期待が高まっていた。
しかし、水素エンジン車の実用化には、燃料となる水素の製造・供給インフラの整備が不可欠だが、現状ではコストやエネルギー効率の面で課題が多く、普及の見通しが立っていなかった。また、トヨタは水素燃料電池車(FCV)「MIRAI」も販売しているが、販売台数は伸び悩んでいる。
EVシフトへの戦略転換
トヨタは、2023年4月に発足した佐藤恒治社長体制のもと、EV戦略を加速している。2026年までにEVの世界販売台数を年150万台とする目標を掲げ、2030年までにEV向けに5兆円を投資する計画を公表している。今回の水素エンジン車の量産断念は、限られた開発リソースをEVに集中するための決断とみられる。
トヨタの広報担当者は「水素エンジン車の研究開発は継続するが、量産化のタイミングについては未定。現在はEVへのリソースシフトを最優先している」とコメントしている。
業界への影響と今後の展望
トヨタの水素エンジン車量産断念は、自動車業界における水素技術の位置づけに影響を与える可能性がある。他の自動車メーカーでも、水素エンジン車の開発に消極的な動きが見られる。一方、商用車や大型車両では、水素燃料電池の活用が引き続き検討されている。
専門家は「水素エンジンは、燃焼時にCO2を排出しないものの、水素の製造過程で化石燃料を使用する場合が多く、Well-to-Wheelでの環境負荷が課題。EVのバッテリー技術や充電インフラの進展が著しい中、乗用車での水素エンジンの優位性は薄れている」と指摘する。
トヨタは、水素エンジン車の開発で培った知見を、水素燃料電池や水素エンジンの産業用・船舶用への応用に生かす方針。また、水素社会の実現に向けた取り組みは継続するとしており、今後の動向が注目される。



