東京成徳大学中学・高等学校(東京都北区)は、2026年11月26日の学園創立100周年を前に、同校で育成すべき「5つの力」として「非認知能力」「グローバル」「ライフデザイン」「実践・創造」「成徳」を掲げた。策定に当たっては、建学の精神であり校名でもある「成徳」の意味を改めて考えることから始めたという。100周年事業推進の中心を担う木内雄太副理事長に、「5つの力」に込めた思いや、今後目指す教育について聞いた。
「徳を成す」プロセスを身につけ、「力」を育む
「5つの力」策定の背景について、木内副理事長は「100周年を振り返りと感謝で終わらせず、次の100年への指針を作りたいという思いがあり、中高一貫部を始め大学、幼稚園の教職員と共に検討したものです。外部の教育者や専門家などの意見も随時聞きました」と話す。
前提として、社会の流動性が高い時代への意識がある。現在最先端と言われる技術も、数年後には時代遅れかもしれない。また、多様な価値観が入り混じり、皆が認める「正解」が見つからない時代でもある。そんな世の中で幸せに生きるには、どんな力や意識、姿勢が必要なのかというところから始まった。
議論のベースとしたのは、90周年の時期に定めた「ビジョン100」の「『成徳』の精神を持つグローバル人材」という教育目標。「成徳(徳を成す)」という言葉は、建学の精神として校名にも冠した重要な言葉だが、今日的な視点で定義したことがなかったため、まずはこれをしっかり考えた。
「成徳」の普遍的なプロセスと四つの段階
「成徳」とは、シンプルに言えば「人として善く生きる」ことだが、この流動性の高い時代に、「徳=善い」の統一的な定義は不可能。しかし、「徳を成す」ための普遍的な「プロセス」はあるのではないか、そしてそれを身につけさせるのが教育の役割ではないかという議論になった。
その「プロセス」として四つの段階を想定した。まず「内省」。自分の生き方や価値観を踏まえ、「何が『善』か」を問い続ける姿勢。次に「行動」。自分が「善い」と信じることを日常の中で具体的に行うこと。さらに「社会への広がり」。自らの「善」を社会の中でも実践し、価値創造へと広げること。これは同時に、他者の考える「善」もおおらかに受け入れて、価値観のアップデートを行うことでもある。そうした積み重ねが、「徳」として「結実」すると考えた。
この「プロセス」を身につければ、卒業後も「自ら学び、挑戦を続ける」ことができ、幸せな人生にもつながるはず。こうした考えのもとに、本校の実践してきた教育を踏まえ、「非認知能力」「グローバル」「ライフデザイン」「実践・創造」「成徳」を「5つの力」として規定した。それぞれの「力」を育てる「プロセス」を、日々の学習機会に織り込んでいく。
「5つの力」それぞれの意味合いと学習機会
まず「非認知能力」は、本校では「自分を律し、やり抜く力」と意味付けている。協調性や共感性、立ち直る力など、様々な要素が含まれる。グループ学習や行事の運営など様々な機会で、失敗を含めて乗り越え、やり遂げる体験を通し、こうした力を育てる。
「グローバル」の力は、単なる語学力ではなく「多様な人とつながる力」と考える。外国人だけでなく、同じ日本人も含めて様々な背景や考え方をおおらかに受け入れ、共に新しい社会を作っていけるか。それを考え、行動することは、人間性の教育でもある。海外研修や学校内外の体験学習が、その主な舞台となる。
「ライフデザイン」は、「自分の未来を選びとる力」。いわゆるキャリア教育よりも少し視野の広い、「自分はどう生きたいか」を自分で決める人になってほしい。そのためには、そもそも自分はどんな特性を持ち、どんな価値観を持っているのかを知ることから始める必要がある。
「実践・創造」は、得た知識や考えを机上で終わらせるのでなく、「形にし、価値を生み出す力」。各教科での学習を社会課題の解決に結びつける機会を提供することに力を入れたいとしている。
そして「成徳」は、こうした全ての力を総合した「品格を持って生きる力」という位置付け。高度な能力を、利己的な動機で使うのではなく、社会のために使う姿勢を育てる。
これらに取り組むのは、生徒だけではない。教員も「考え・実践し・社会に広げ・結実させる」という「プロセス」に共に取り組み、人間的に成長する。いわば「ともに挑み、ともに育つ」心構えが必要だ。
プログラムの体系化、教育効果の定量的把握も目指す
「5つの力」の理念をプログラム面でどう生かすか。まずは、探究プログラムの体系化を進めたい考えだ。本校には、個人探究のテーマに基づき国内各地に調査に出向く「実地踏査型研修旅行」や、様々なテーマから一つ選んで1年間グループ探究を行う「ダイバーシティゼミ」、中1から4年間行う自己理解教育「自分を深める学習」など、数多くの取り組みがある。これまでは個別に行ってきたが、「5つの力」の観点で捉え直し、発達段階を踏まえた統合的カリキュラムとして整理する。
さらにこれを「学習指導要領」のようなものにまとめ、各教員がプロセスを共有できる仕組みを作る。そうすれば教育の軸がブレることなく、より生徒の人生に資する教育が提供できるという。
AI(人工知能)の授業活用にも力を入れている。生成AIの使用が当たり前となった今、「どう使うのか」というリテラシーを身につける必要がある。直接答えを聞くのではなく、対話によって自分の思考を深める、「壁打ち」に活用する。これも「5つの力」育成に役立つとしている。
例えば、歴史の授業では織田信長のペルソナをAIに作らせて生徒がインタビューする。古典では「清少納言が現代に生きてSNSを始めたら」というテーマで発想を広げる。作文の課題では、教育意図をプロンプト化することで、より丁寧な添削に役立てることができる。英語の授業では専用のAIアプリを、発音のチェックやライティングのアドバイスに活用している。
今後の課題は、「5つの力」を定量的に把握する仕組みづくり。学力や合格実績などと異なり、これらの力は単純な計測が困難だ。ただ本校はアップル社の「Apple Distinguished School」としてICTの教育活用を進め、生徒の学習に関するデータ蓄積も行っている。こうしたソースが活用できるだろう。また、米国などで研究が盛んな「社会情動学習」理論にも、社会的スキルや感情的スキルを定量的に捉える手法があり、参考にしたいとしている。
こうした取り組みによって、次の100年を見据えて目指したいのは、生徒たちが巣立った後も末永く、本校を「自分のホームグラウンドであり、心の支え」と思える場所であり続けること。そのためにも、これまで取り入れてきた教育の狙いや効果を改めて言語化し、裏付けを持った教育の質向上に取り組む考えだ。



