世界の電気自動車(EV)市場が曲がり角に来ている。2024年に入り、EV販売の伸びが急激に鈍化し、業界トップの中国BYDと米テスラが相次いで販売台数目標の下方修正や生産調整を発表した。これまでEVシフトをけん引してきた両社の戦略転換は、自動車業界全体に大きな影響を与えている。
EV販売の減速感が鮮明に
2023年まで堅調だった世界のEV販売だが、2024年第1四半期の伸び率は前年同期比で10%未満にとどまり、2023年の同35%増から急減速した。特に中国市場では、補助金縮小と価格競争の激化が消費者の購買意欲を冷やしている。日本経済新聞の報道によると、中国のEV販売台数は2024年4月に前年同月比で12%減少し、21カ月ぶりにマイナスとなった。
BYDは2024年の販売目標を従来の400万台から360万台に下方修正した。同社の王伝福会長は「市場環境は予想以上に厳しい。補助金の段階的廃止と競合他社の値下げ攻勢に対応するため、戦略を見直す必要がある」と述べている。テスラも2024年1〜3月期の納車台数が前年同期比8.5%減の38万6810台にとどまり、4年ぶりに減益を記録した。イーロン・マスクCEOは「高金利が消費者の自動車ローン負担を重くしている」と指摘する。
価格競争の激化と利益圧迫
両社は価格競争の渦中にある。BYDは2023年に「秦」や「宋」などの主力モデルを最大20%値下げし、テスラも「モデル3」や「モデルY」の価格を日本円で100万円近く引き下げた。しかし、値下げの効果は限定的で、むしろ利益率を圧迫している。BYDの2024年第1四半期の営業利益率は5.1%と、前年同期の8.3%から低下。テスラの営業利益率も5.5%まで落ち込み、自動車メーカーとしての収益性が急激に悪化している。
この状況を受け、両社は戦略の転換を迫られている。BYDは低価格帯EVの投入を加速する一方、高級車ブランド「仰望」の販売を強化し、収益源の多様化を図る。テスラは2025年に20万円台の低価格車「モデル2」の発売を計画するが、その前に生産コスト削減と効率化が急務だ。マスク氏は「2024年は生産工程の自動化とAI活用によるコスト削減に集中する」と述べている。
生産調整と工場の稼働率低下
販売減速に伴い、両社は生産調整を余儀なくされている。テスラは上海工場の生産ラインを一部停止し、稼働率を70%程度に低下させた。BYDも中国国内の複数工場で生産シフトを実施し、在庫調整を進めている。業界アナリストのジョン・スミス氏は「EVメーカーは需要の急減に直面しており、過剰生産能力の調整が避けられない」と指摘する。
さらに、米国と欧州連合(EU)が中国製EVに対する関税引き上げを検討していることも、両社の輸出戦略に影を落とす。EUは2024年7月から中国製EVに最大25%の追加関税を課す方針で、BYDの欧州進出計画に影響が出る可能性がある。
今後の展望:EV市場の成熟と新たな競争
EV販売の減速は、市場が初期導入期から成熟期に移行していることを示す。補助金に依存した成長から、自律的な需要創出への転換が求められる。BYDは2024年に中国国外で販売網を拡大し、東南アジアや南米での現地生産を強化する。テスラは自動運転技術「フルセルフドライビング(FSD)」の収益化を目指し、ソフトウェアサービスによる収益源の確保を急ぐ。
しかし、競争はさらに激化している。中国の新興EVメーカー「小鵬汽車」や「理想汽車」が低価格車で攻勢をかけ、フォルクスワーゲンやトヨタなどの既存大手もEVラインアップを拡充している。BYDとテスラがこの厳しい環境で優位性を維持できるかは、コスト競争力と技術革新にかかっている。業界全体として、2025年以降のEV市場の成長ペースが注目される。



