中国の電気自動車(EV)大手、比亜迪(BYD)はタイの工場で生産を開始したと発表した。東南アジア市場でのプレゼンス強化を目指し、現地生産によるコスト削減と供給網の構築を図る。
東南アジア戦略の要となるタイ工場
BYDのタイ工場は、同社にとって東南アジア初の生産拠点となる。年間生産能力は15万台で、主にタイ国内市場向けのEVを生産する。タイ政府はEV普及を推進しており、購入補助金や税制優遇措置を設けている。BYDはこうした政策を追い風に、タイ市場でのシェア拡大を狙う。
タイ工場では、まず小型EV「ドルフィン」と「アット3」の生産を開始する。これらのモデルは既にタイで販売されており、現地生産により価格競争力が高まると期待される。BYDのタイ法人社長は「タイは東南アジアのEVハブとして重要な位置づけ。現地生産を通じて、より多くの消費者に手頃な価格でEVを提供できる」と述べている。
中国市場の減速を海外で補う
BYDは中国国内市場での成長が鈍化する中、海外展開を加速している。2023年の世界販売台数は約302万台で、そのうち海外販売は約24万台。タイ工場の稼働により、東南アジアでの販売拡大を目指す。
タイは東南アジア最大の自動車生産国であり、多くの日系自動車メーカーが進出している。BYDの進出は、日系メーカーにとっても脅威となる。特に、トヨタ自動車やホンダが強みを持つハイブリッド車市場に、EVで攻勢をかける構図だ。
タイ工業省のデータによると、2023年のタイ国内のEV販売台数は前年の約7倍となる7万6千台に急増。BYDはそのうち約3割のシェアを占め、首位に立っている。今回の現地生産により、さらにシェアを拡大する可能性がある。
東南アジア全域への輸出も視野
BYDはタイ工場を東南アジア全域の輸出拠点としても活用する計画だ。タイはASEAN諸国との間で関税が低く、周辺国への輸出に有利な立地にある。また、タイ政府のEV促進政策「EV3.5」では、2026年までにEV生産台数を30万台に引き上げる目標を掲げており、BYDはその達成に貢献する。
さらに、BYDはタイでバッテリーの現地生産も検討している。工場に隣接する用地で、バッテリーパックの組み立てラインを設置する計画だ。これにより、サプライチェーン全体の現地化を進め、コスト競争力を高める。
一方、タイ市場では中国の他メーカーも攻勢を強めている。長城汽車や上海汽車もタイで生産を開始しており、競争は激化している。BYDはブランド力と技術力で差別化を図る方針だ。
日系メーカーへの影響
タイは日系自動車メーカーの牙城であり、トヨタ、ホンダ、日産、三菱自動車などが長年生産拠点を置いてきた。しかし、EVシフトの遅れから、中国勢に市場を奪われつつある。2023年のタイ新車販売台数に占めるEVの割合は約12%で、今後さらに増加すると見込まれる。
日系メーカーはタイでのEV生産を急いでいるが、本格的な量産には至っていない。トヨタは2023年12月にタイでEV「bZ4X」の生産を開始したが、生産台数は限定的。ホンダも2024年にEV生産を開始する予定だが、規模は小さい。
BYDのタイ工場稼働は、日系メーカーにとって競争激化を意味する。価格面では中国勢に劣るため、品質やアフターサービスで差別化する必要がある。また、タイ政府がEV生産を促進する中で、日系メーカーにも生産シフトが求められている。
BYDのタイ進出は、東南アジアの自動車市場に大きな変革をもたらす可能性がある。同社は今後、インドネシアやベトナムなど他の東南アジア諸国でも生産拠点の設立を検討している。BYDのグローバル戦略が、地域の自動車産業地図を塗り替えるかもしれない。



