サイボウズは4月14日、kintoneの活用アイデアをユーザー同士で共有するライブイベント「kintone hive 2026」を大阪で開催した。このイベントの中で、不二製油 人材開発部 海外人事課の大森誉史氏と小林麻紀氏は、「kintoneと共に歩んだ関係性の再構築」と題して、同社の海外人事業務におけるkintoneの活用事例をRPG風に紹介した。
海外人事業務を阻んでいた「セキュリティの壁」
不二製油は植物性油脂事業、業務用チョコレート事業、乳化発酵素材事業、大豆加工素材事業という4つ事業を営む企業で、連結従業員数は5600名ほどだ。B to Bを主な生業とし、お菓子やパン、惣菜など身近な食品の美味しさを機能で支えている。
同社には海外駐在員が約70名おり、世界約15カ国で事業を展開している。大森氏と小林氏が所属する海外人事課はグローバル事業を影で支えるため、海外駐在員の赴任から帰任までをサポート。この課が業務を進める際の最大の障壁は、セキュリティだったという。
「セキュリティの壁があるため、私たちの業務は本当にアナログなことばかりでした。ポータルシステムは海外駐在員が見られないため、大量のメールでバックアップしていました」と、小林氏は同課が抱えていた課題を説明した。
大森氏も「申請書も全部Excelなので、バージョンアップの連続でどれが最新なのか分からなくなっていました」と課題を挙げた。また、現地担当者に連絡を取るため、海外駐在員に仲介を頼むこともあり、駐在員は海外人事課と現地担当者の板挟みになり、身動きが取れないこともあったという。
コロナ禍が浮き彫りにしたアナログ業務の限界
そんな状況が続いていたある日、コロナ禍になった。これまでのようなアナログ的な対応は限界を迎え、それまで顕在化してこなかった問題が一気に噴出した。業務がアナログすぎたため、出社しないと仕事ができず、コロナ禍でもなかなか在宅勤務ができなかったという。
「原本を国際郵便に送ってもらって、そのやりなおしの連絡を国際郵便に送り返して、また国際郵便に送り直してもらうという状況でした。もうこのようなやり方は続けられないということで、kintone導入を決断しました。私たちのような非IT人材でも、アプリ作成が可能なノーコードツールというのがかなり魅力的でした」と、大森氏はkintone導入の理由を語った。
現場定着を実現した「5つのStep」
kintoneを活用するにあたっては、最初から完璧を目指さないアプローチを取り、5つのStepで段階的に進めたという。
まずはStep0として、kintoneの導入に先立ち、海外駐在員に対して事前の更新説明会を実施した。kintoneの導入が初めてで不安が伴うため、その不安を少しでも払拭することが目的。最初に全体像を見せ、余裕を持ったスケジュールを組み、段階的にリリースすることを心掛けたという。これによって駐在員がkintoneに慣れる時間を確保でき、海外人事課にとっても、意見や問い合わせが集中することを避けられた。また、kintoneを構築するための時間の確保にもつながったという。
次のStep1では、基礎固めとして、駐在員台帳や家族台帳などのマスタ情報の一元化を図った。これによって、駐在員にとっては登録されている内容がすぐ分かり、ルックアップによって入力補助の恩恵を受けられたという。「海外人事課にとっても、今までバラバラだったデータを一つに集めて資産化することによって、kintone構築は単なるアプリ作りではなく、仕組み作りへと昇華させることができました」(大森氏)
続くStep2では、チュートリアルを作る作業でアプリに慣れ、利用必須アプリで練習してもらい、簡単さや便利さを実感してもらったという。そして、Step3では、関係者が少ないアプリから多いアプリへ、シンプルなアプリから複雑なアプリへと徐々にレベルを上げ、既存の各種Excelの申請書を徐々にワークフロー化していった。
最後のStep4では、利用者の拡大を図った。利用者拡大にあたっては、導入のメリットを受けやすく、余力があり、頼みやすい人といった順番でお願いしていくことが重要だったという。また、使うことを一度断られても粘り強く交渉し、それぞれの人が安心して使えるようにアクセス権の設定を明確にするということを心がけたという。「このように段階的なアプローチを取ることによって、今までのアナログな海外人事業務がどんどんkintone化され、業務を効率化できるようになりました」(小林氏)
海外人事業務の3大課題をkintoneで解決
海外人事業務のkintone化では、「引き継ぎ」「標準化」「属人化」という3つの課題を解決した。
「引き継ぎ」の課題は、海外現地担当者が急に交代になると、会社手続きや役所手続きなどのフローが回らなくなり、海外人事課でもその進捗状況がわからないという問題だ。そこで、以前は長文のメールを送って、あとは駐在員任せだったものを、kintoneで赴帰任案内アプリを作ることにした。ただ、アプリ化したからといってタスクが減るわけではないため、アプリが見やすくなるように項目をタブ化した。また、それぞれのタスクによって関係してくる人が変わってくるため、項目の公開範囲を明示。さらに、進捗状況がアプリですぐに見られるようにレポート一覧で表示するように工夫した。そのほか、役所に関するたくさんのタスクがあったため、セルフ用のチェックリストも作成したという。
「標準化」の課題は、担当者の急な離職によりフローやルールが引き継がれなかったり、現地スタッフにとって日本本社のルールが複雑で、印鑑が押されないまま書類が送られてきたりする問題だ。こういった文化や言語、認識の壁を超えるため、同社はkintoneの言語切り替え機能や選択式フィールドを利用。統一フォーマットで入力方法を統一し、制度に沿った入力を感覚的に行えるようにした。
「属人化」の課題は、特にビザ関係の業務で発生。ビザは国によってルールが異なり、現地側でやらなければならないこと、日本側でやらなければならないことなど、多くのタスクがあり、属人化してしまいがちだった。そこで、VISA申請用のアプリをkintoneでつくることによって、情報が仕組み化され、蓄積・整理されていったという。また、VISA申請用のアプリは情報を全て一つに集めるという役割のものなので、誰がどこに入力すればいいのかがわかるようにフィールドを色分けした。「このようにビザ関係の業務がアプリで一つのレコードに集約されますので、これ自体が何かあったときの最高の引き継ぎ資料となりました」(大森氏)
小林氏が、kintone化によって一番メリットを感じているのは、ワークフローだという。「私は何といってもワークフローが一押しです。海外各社に承認者がいますが、承認者は別のアプリで管理しています。本人が申請するときに、承認者は自動ルックアップで自動的にプロセス管理に組み込む運用をしています」(小林氏)また、費用精算のアプリでは、日本の課税 / 非課税、海外での納税項目、小計が自動で計算されるようにした。「まずは、基本となるアプリを構築し、だんだんとアプリを増やしていき、海外駐在員のkintoneへの訪問頻度を上げていきました。kintoneが海外駐在にとってなくてはならないツールとして動くように昇華させ、効率化を図りました」(小林氏)
年間116時間の業務削減・70万円のコスト削減を達成
同社はkintone導入によって、年間116時間の業務削減、年間70万円のコスト削減を達成。給与明細の送付に要する時間も30分から5分に短縮され、国際郵便もほぼゼロになった。さらに、判断が個人から仕組みへと変わり、駐在員が中継役から解放された点も大きかったという。また、現在は現場主導のDX(デジタルトランスフォーメーション)が他の地域に波及している。中国やタイでも独自にkintoneが導入され、中国では30を超えるアプリが構築されている。
次の目標は駐在員データの活用高度化
同社では次の取り組みとして、駐在員候補プールの可視化、拠点を超えたグローバルな知見共有ネットワーク、kintoneに集まったデータのさらなる高度化を考えているという。「各関係者と協業しながら世界で戦う海外駐在員をより強力にサポートしていくため、今後もkintoneを発展、進化させていきたいと考えています」と小林氏は語った。



