英国政府は、人工知能(AI)の悪用を防ぐための新たな法律を制定する方針を明らかにした。性的な偽画像の作成や、同意なく性的なディープフェイクを作成・共有する行為を新たな犯罪として規定し、最長で無期懲役を含む厳しい罰則を科すことを検討している。
新法の概要と対象行為
新法では、AIを用いて作成された性的な偽画像やディープフェイク動画の作成・共有を犯罪化する。これにより、実際の人物の顔を合成して性的なコンテンツを作成する行為や、そのようなコンテンツを本人の同意なく拡散する行為が厳しく取り締まられる。また、AIを利用した児童の性的虐待画像の作成や、テロリズムへのAI活用も新たな犯罪類型として追加される。
英政府は、これらの行為に対して最高で無期懲役の罰則を科すことを検討しており、特に悪質なケースでは長期の懲役刑が科される可能性がある。法務省の担当者は「AIの急速な発展に伴い、その悪用のリスクも高まっている。新法は国民を保護し、AIの責任ある利用を促進するための重要な一歩だ」と述べている。
背景と現状の課題
近年、AI技術の進歩により、誰でも簡単にリアルな偽画像や偽動画を作成できるようになった。特に、著名人や一般人の顔を無断で使用した性的なディープフェイクコンテンツがSNS上で拡散される事例が増加しており、被害者の精神的苦痛や社会的な影響が深刻化している。
英国では現在、こうした行為を直接規制する法律が存在せず、既存の法律では対応が難しいケースが多かった。例えば、同意なく性的なディープフェイクを作成した場合でも、現行法では名誉毀損やプライバシー侵害で訴えることは可能だが、作成行為自体を直接罰する規定はなかった。新法はこの法的なギャップを埋めるものとなる。
国際的な動きと影響
英国の動きは、世界各国で進むAI規制の流れに沿ったものだ。欧州連合(EU)はAI法案(AI Act)を2024年に採択し、ハイリスクAIシステムの規制を進めている。また、米国でもバイデン政権がAIに関する大統領令を発令し、AIの安全性と信頼性の確保を目指している。
専門家は、英国の新法が他の国の規制に影響を与える可能性があると指摘する。ロンドン大学のAI倫理研究者は「英国がディープフェイクの悪用を明確に犯罪化したことは、国際的な基準作りに貢献するだろう。特に性的なコンテンツに関する規制は、他国でも同様の立法を促す可能性がある」とコメントしている。
今後のスケジュール
英政府は、新法の詳細な内容を2025年初頭に公表し、議会での審議を経て早期の成立を目指すとしている。また、新法の施行後は、AI企業やプラットフォーム事業者に対して、違法コンテンツの削除や防止策の強化を求める方針だ。
一方で、新法に対する懸念の声もある。表現の自由や技術革新への影響を心配する意見や、規制の範囲があいまいだと指摘する声も上がっている。英政府は、これらの懸念に対応するため、明確なガイドラインを策定するとともに、AIの研究開発や利用を不当に制限しないよう配慮する方針を示している。



