人工生命研究者の岡瑞起氏は、著書『AIの時代に頭がよくなる人悪くなる人』(日経BP)の中で、台湾がAIを社会の分断を深めるのではなく、つなぐために活用している事例を紹介している。特に、2016年に台湾で起きたUber(ウーバー)をめぐる議論では、オードリー・タン氏が導入した「Pol.is」システムが対立解決に重要な役割を果たした。
Uberをめぐる賛否の対立
2016年、台湾でUberの導入が検討されると、タクシー業界が猛反対した。「素人が客を乗せるのは危険」「仕事が奪われる」という主張に対して、Uber賛成派は利便性と低価格を訴えた。両者の対立は激化し、通常であれば平行線のまま決着がつかないか、政治家の強引な決断に委ねられるケースが多い。しかし台湾では、オードリー・タン氏が約1700人の市民を集め、Pol.isというシステムを用いた議論を実施した。
Pol.isの仕組みとAI分析
Pol.isは、参加者が短い意見を投稿し、他の意見に対して「賛成」「反対」「わからない」のいずれかをタップするシステムである。返信やコメントはできず、感情的な応酬を防ぐ設計となっている。集まったデータは、主成分分析(PCA)やクラスター分析といった統計手法で処理される。これにより、似た投票パターンを持つ人々が自動的にグループ化され、意見の分布が可視化される。
共通知の発見と合意形成
AI分析の結果、賛成派と反対派の間で「実は同意できる点」が浮かび上がった。例えば、両グループとも「安全基準の強化」や「ドライバーの身元確認」には賛成していた。この共通点を基に、タン氏らは具体的な規制案を策定。最終的に、Uberの導入とタクシー業界の保護を両立する形で合意に至った。岡氏は「AIはパターンを見つけ出すのが得意であり、人間同士では難しい翻訳を可能にする」と指摘する。
日本のパブリックコメントとの違い
日本ではパブリックコメント制度があるが、意見を述べるだけで対話や集約の仕組みが乏しい。Pol.isは、AIによる分析と可視化を通じて「共通知」を形成する点で決定的に異なる。岡氏は「台湾の実験は、AIが分断を超えるために使えることを示している」と述べている。
AIの可能性と課題
岡氏は、AIが社会の分断を深めるリスクを認めつつも、適切に設計されたシステムは合意形成を促進できると強調する。台湾の事例は、AIを民主的な議論のツールとして活用する可能性を示唆している。



